訃報を聞いて真っ先に思い出したのは、アテネ五輪日本代表チームで長嶋さんに言われた「君たちは野球の伝道師になれ」という言葉でした。

　僕は社会人野球出身ですから、オールプロで結成されるアテネ五輪の代表チームに入るのは、社会人選手の夢を奪ってしまうことになるので少し嫌でした。しかもオールプロなら金メダルは当然でしょうし、何より長嶋さんの顔に泥はぬれない。色んなものが降りかかってきて、最初は少し怯んでいました。

　それでも長嶋さんに選んでいただいて、しかも「キャプテンをやれ！」と。覚えているのは、代表メンバーの発表会見の後で、長嶋さんと2人で取材を受けたときの不思議な感覚です。あの長嶋さんと一緒にという晴れがましさの一方で、野村（克也元ヤクルト監督）さんの下でずっと“打倒長嶋巨人”で育ってきた自分が、その最大のライバルの下で五輪を戦う。その緊張と嬉しさとがないまぜになった不思議な感覚は今でも忘れることができません。

　実際に接した長嶋さんは、思っていたイメージとはまったく違いました。それまでは直感でやられる方、正直にいうと結構トンチンカンなことも言う方なのかなと想像していました。

　しかし2003年11月のアジア予選に向けた直前合宿に入ったときです。最初のミーティングで長嶋さんが「君たちは野球の伝道師になれ」とお話をされたんですね。

　ミーティングでは最初に「アテネというのはオリンピック発祥の地で、そこで我々、野球の日本代表が日の丸を掲げる」と。それでオリンピックの歴史を話されて、途中で「我が巨人は」とかおっしゃいましたけど、1時間ぐらい淀みなく話をされて、その熱量と説得力に完全にイメージが変わりました。

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