川手洋一氏(74)は、報知新聞の記者として長嶋監督一期目の1978(昭和53)年から巨人を担当。以来、47年の交流が続いた。王貞治氏とも親しく「背番号2」といわれた伝説の記者が語る。
初めてご挨拶したのは監督4年目の開幕前です。僕の顔と名刺を何度も見比べていました。背番号3に憧れた野球少年だったので、「これが本物か」と見惚れていました。

翌79年の伊東キャンプで長嶋さんに急接近できました。
この年、巨人はヨレヨレで結果的に5位。夏ごろから監督は「巨人はやり直しだ」と口にするようになり、それが中畑清、篠塚利夫、江川卓ら18人の若手を集めての秋季キャンプの決行になりました。
よく“地獄の”と形容されますが、午前中の監督は、毎日、伊東スタジアムの左翼後ろにあった林を散策することが多かった。「一句詠め。冬枯れや――、後を続けろ」で始まり、何度詠んでも「センスない。やり直し」。たまに左翼ブルペン横の土手を四つん這いで登り「やってみろ」と指令、僕を鍛えて喜んでいるのです。その間、選手の動きをチラチラ見ていて、突然、グラウンドに舞い降りると、選手の中に飛び込んでいく。この時は目つきが鋭くなり表情が一変します。もう一切、声はかけられません。
無心になり、体力、気力の限界での練習が一流を作るというのが持論で、選手がひと通りメニューを終えて疲労を感じる瞬間を待ち構えているのです。「さあ、行くぞ、これからだ!」と、監督の甲高い声が響き渡ります。ここからが、地獄の伊東キャンプでした。監督も選手も叫び続け、夕方、倒れる寸前で数十メートル先の宿舎に引き揚げます。
この時、広島・近鉄の日本シリーズが行われていて、キャンプの1クールが終わると主力記者のほとんどはシリーズ取材に向かいました。いくら巨人でも、若手主体ではシリーズに対抗できるニュースもない。
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