球春は長嶋茂雄のことである

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「超」がつくほどの熱狂的長嶋ファンとして知られる作家・ねじめ正一氏(77)が、知られざるミスターとの交友を明かす。

 初めて生で見たのは、1958(昭和33)年のデビュー戦。私が9歳の時でした。オープン戦での活躍から期待していましたが、この日は国鉄の金田正一さん相手に4打席連続三振。かすりもしないほどの完敗でした。しかしその後はめきめきと成績を伸ばし、新人王に。父と観に行ったこの年の日本シリーズ第7戦では、9回裏、西鉄に6点差をつけられるなか、ランニングホームランを放った。余裕で間に合うのに、豪快にスライディングして観客を沸かせる姿を、まさに忘我の境地で見ていました。

 この時ショートを守っていた西鉄の豊田泰光さんに、後年「まだ長嶋さんが好きなの? あれは子どもの夢でしょう」とからかわれ、口論になったことがありますが、あの光景を見た時から、長嶋茂雄は私にとって永遠の夢なのです。

 だから1988年、初めてテレビ番組で長嶋さんと対談した時は、天にも昇るような想いでした。「直木賞を獲ればまた長嶋さんに会えるかもしれない」と、一生懸命小説を書き、本当に獲ることができた。受賞直後、たまたまTBSで長嶋さんとすれ違うと、「直木賞ありがとうございます!」。「おめでとう」の言い間違いだったのでしょうが、妙にあたたかい気持ちになったことを覚えています。

ねじめ正一氏にとって「長嶋茂雄は永遠の夢」 Ⓒ文藝春秋

 その後も取材などを通じてささやかな交流が続き、2度目の監督就任後は、毎年春の巨人軍キャンプを見に行くようになりました。

 長嶋さんが監督を退任される年も、例年通り宮崎キャンプで挨拶に行くと、「うな重があるから食べませんか」と、監督室でご馳走してくれました。私はすっかり恐縮してしまって、もうこれ以上ご迷惑をかけてはなるまいと、練習を見てそそくさと空港に向かいました。すると道中、球団広報の小俣進さんから電話がかかってきた。

「監督が今夜、食事をご一緒したいと言っているのですが」

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source : 文藝春秋 2025年8月号

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