福岡国際マラソンを三連覇、ボストンやロンドンなど海外レース優勝など、1980年代に世界を席巻し、現在はDeNAアスレティックスエリートアドバイザーを務める瀬古利彦(せことしひこ)氏(1956―)。彼を手塩にかけて育て上げたのが、マラソンコーチの中村清(なかむらきよし)(1913―1985)だった。恩師と二人三脚で歩んだ若き日の思い出を瀬古氏が語る。
中村清監督が亡くなったのが1985年のこと。趣味の渓流釣りの最中に持病の心臓発作を起こしてしまったようです。それから三十数年経ちますが、僕にとってはいまだに怖い存在のまま。よく夢の中にも出てきて、「おまえ、大丈夫か」と叱咤激励されます。それだけ教え子のことが心配なんでしょうね。

最初に中村監督と出会ったのは、19歳の真っ白な時期。そのときのインパクトが強すぎました。
早稲田大学の受験に失敗した僕は、1年間、アメリカに留学しました。ですが、思うように走れる環境ではなくて、モヤモヤしながらストレスはたまるばかり。ホームシックで週に3、4回は泣いていました。甘いものを食べたり、少し遊びも覚えたりして、どんどん太っていきました。自分が潰れていくのがわかっているのに、「どうでもいいや」と自暴自棄になっていました。
翌年、早稲田入学が決まってからも、あまり気持ちは切り替わりませんでした。当時の早稲田の長距離は弱小チームでしたし、僕自身にもさしたる志はなく、「箱根駅伝に出られればいいな」と思っていました。
そして忘れもしない入学前の3月25日、競走部の合宿に行ったら中村監督がいたのです。
「いいか、瀬古。この砂を食えば世界一になれると言われたら、食えるか? 俺だったら簡単だ」
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source : 文藝春秋 2017年7月号

