サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します
いま米国の医薬品市場を、オゼンピックという薬が席巻している。もともとは糖尿病の治療薬として開発されたが、臨床試験の過程で体重減少効果があることが発見され、一挙に肥満症治療薬として脚光を浴びたのだ。こちらの用途では、ウゴービの名で発売されている。
何しろ米国は、成人の肥満率が40パーセントを超える肥満大国であり、魔法のやせ薬の登場に注目が集まらないわけがない。本来この薬は肥満「症」治療薬であり、スタイル改善程度の目的で使うべきものではないのだが、医師の診断さえあれば利用は可能だから、一気に使用は拡大した。インフルエンサーたちが効能を語る動画の再生回数はうなぎ登りとなり、イーロン・マスクら多くのセレブも使用を告白した。あまりに人気となり、本来の対象者であるはずの糖尿病患者にこの薬が行き渡らないという事態まで発生している。
2024年のオゼンピック/ウゴービの売上は約260億ドル、日本円で4兆円近くにも達した。発売元のノボ ノルディスク社はもともとは中堅どころの製薬企業であったが、この爆発的な売上によって一挙にヨーロッパ最大の企業にのし上がった。一時は同社の株式時価総額が、本国デンマークのGDPを上回ってしまったというから、まさに異常事態だ。
この独走を、ライバルたちが指をくわえて見守っているはずもない。米国イーライリリー社の新薬マンジャロは、体重減少効果でウゴービを上回り、人気を集め始めている。数年後にはその売上は年間500億ドルに達し、史上最大の医薬品に成長するという予測もなされている。
しかしこれらの薬は、日本ではそれほど話題になっていない。薬で減量することに抵抗感が強い文化なのも要因だが、そもそも日本人の肥満率は米国の10分の1ほどに過ぎず、需要がずっと少ないのだ。
その要因としては、やはり食生活の違いが大きそうだ。低脂質で食物繊維の豊富な和食は、肥満を引き起こしにくい。ならば、やせ薬で稼ぐデンマークに対抗し、日本は和食をもっと売り込んでみてはどうか。いくら関税をかけられようと、月に数百ドルもするやせ薬よりはずっと安くつくはずだ。美味でヘルシーな和食で、皆が美しく健康になれるなら、これこそウィン-ウィンというものではないだろうか。
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