サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します
連日の猛暑日にうんざりしつつ、この原稿を書いている。本稿が読者の目に触れるころにも、おそらく厳しい残暑が続いていることだろう。
20世紀の国内最高気温は、1933年7月25日に山形市で観測された40.8度で、この記録は74年間も破られなかった。しかし近年では40度超えは珍しいことではなくなり、今年8月5日には群馬県伊勢崎市で41.8度を計測、観測史上最高を更新した。
ただ暑いだけでなく、各地で豪雨災害も頻発している。これは、暑さで温められた海水から、雲の元になる水蒸気が大量に供給されるためであり、温暖化と深い関係がある。また酷暑による米の生育不良、野菜類の不作などの可能性もあり、秋以降の食料価格も大いに気がかりだ。
このように、温暖化による危機は年々深刻化しつつあるが、不思議なことにその原因である二酸化炭素をどうにか削減しようといった話を、メディアで見かけることはほとんどない。地球温暖化に警鐘を鳴らしたドキュメンタリー映画「不都合な真実」が話題を呼んでから20年近くが経つが、巷では未だに懐疑論を耳にする機会の方が多い気すらする。実際には、太陽周期や火山活動などの要因を全て考慮しても、化石燃料使用の影響の方が圧倒的に大きいことは、とっくに科学者間のコンセンサスとなっているのだが。
しかし米トランプ政権は、気候変動のデータを削除してみたり、石油を掘りまくれと命じてみたりと、温暖化抑制とは全く逆の政策を打ち出している。日本でも、温暖化対策が選挙の主要な争点となることはまずない。この分野に本気で取り組んでいる研究者も決して多いとは言えず、十分な研究費が振り向けられているわけでもない。投資家も、温暖化抑制の支援には関心を示さず、膨大な電力を消費する仮想通貨の取引に血道を上げている。要するに、政界も学界も経済界も暑い暑いとだけ言いながら、誰もが地球温暖化から目を背けて日々を暮らしているのだ。
毎年夏になると、昭和の日本はなぜ勝ち目のない戦争に突入してしまったのか、皆で考えるのが恒例行事のようになっている。50年後の人々は、なぜ我々の祖父母たちはわかりきっていた危機に対して何の対策も打たず、手をこまねいたまま温暖化の時代を迎えてしまったのかと、首をひねって考えているのかもしれない。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
初回登録は初月300円・1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
電子版+雑誌プラン
18,000円一括払い・1年更新
1,500円/月
※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2025年10月号

