サイエンスライターの佐藤健太郎氏が世の中に存在する様々な「数字」のヒミツを分析します
2025年1月、ドナルド・トランプ氏が大統領の座に復帰した。それ以来全世界は、この大柄な78歳の老人が矢継ぎ早に繰り出す、数々の破天荒な政策に大きく振り回されている。
外交や経済などの話題に隠れているが、科学界もまた激震に見舞われている。中でも政権の目の敵にされているのが、気候変動に関する分野だ。トランプ大統領は以前から気候変動に関して懐疑的であり、第二次政権でも発足するや否やパリ協定からの離脱を表明している。研究者を含め、国立海洋大気庁の職員数百人が解雇されており、今後全世界の気象予測に悪影響が出ることが懸念されている。
疾病対策センター、食品医薬局、国立衛生研究所など、コロナ禍においてフル回転した保健機関も、合計1万人ほどが解雇され、予算も大幅削減の憂き目に遭った。だがこの事態は、上記の機関を束ねる米厚生省のトップにロバート・ケネディJr.氏が就いた時点で、予測されていたことではあった。氏は公衆衛生に関して、科学的根拠を欠いた問題発言が多々あり、上記の機関を露骨に敵対視していたからだ。新薬の承認申請や感染症対策など、多くの重要分野で混乱が避けられそうにない。
米国の知の牙城である、大学に対する圧力も強まっている。特に、コロンビア大学やハーバード大学などの名門校はリベラル思想の巣窟と見なされ、助成金の減額や凍結が断行された。これに伴い、各大学は人員削減を余儀なくされている。
危機にあるのは研究者の雇用だけではない。米政府のウェブサイトから、ジェンダーや気候変動に関するデータが、次々に削除されたのだ。研究者たちが心血を注いで得た、彼らにとって生命線というべきデータが、命令一つで消し去られるのだから理不尽極まりない。自由の国アメリカで、現代版の焚書坑儒というべき動きが大っぴらに進められるとは、全く予想もできぬことであった。
こうした動きのため、米国の若手研究者のうちなんと75パーセントが、国外への脱出を検討しているという。にわかには信じ難いほどの数字だが、それだけ彼らの危機感は強いということだろう。国力の源泉であり、国際的な敬意の対象であるアカデミアを、最高権力者は自らの手で叩き潰そうとしている。世紀の愚行という以外、言うべき言葉が見当たらない。
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