総力戦研究所所長の孫が怒りの告発
『シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~』というドラマが、8月16、17日の2夜、前後編としてNHKで放送されました。日米開戦直前の1941(昭和16)年8月、総理大臣の直轄機関「総力戦研究所」が様々なシミュレーションの末に「日本必敗」という結論を得て、近衛文麿首相や東條英機陸相に報告したものの採用されず、戦争に至った史実を元にしています。
この総力戦研究所の初代所長を務め、日米戦争のシミュレーションを進めたのは、私の祖父で陸軍中将だった飯村穣(じょう、1888~1976)です。ところがこのドラマで祖父は、シミュレーションに必要不可欠な自由闊達な議論を妨げ、結論を捻じ曲げようとする卑劣な人間として登場します。
私は放送前から、NHKと話し合いを重ねてきました。祖父の描かれ方が事実と正反対であることに抗議し、戦争の記憶が薄れていく中で史実が歪曲されて広まってしまうことを恐れて、修正を求めたのです。
総力戦研究所は、1940(昭和15)年9月に発足し、翌年4月には陸海軍、各省、民間企業、銀行などから若手のエリート36名が研究生として選ばれた。平均年齢は33歳。軍事力だけでなく、政治、経済、文化など国のあらゆる力を結集して遂行される総力戦について調査研究を行なった。1941(昭和16)年7月から、メンバーがそれぞれの専門分野を活かした模擬内閣を組織して、閣僚や日本銀行総裁などの役割を担い、軍事、外交、経済、思想など各分野の機密情報を元に、日米開戦を想定した机上演習を実施した。その結論は「国力差が大きすぎ、日本は必ず負ける。戦争は回避すべし」。しかし、その報告は政府や軍部の政策に反映されず、日本は戦争へ突き進んでいく。
所長としてこの研究を推進したのが、飯村穣・陸軍中将だ。のちに南方軍総参謀長としてレイテ島決戦で指揮を執り、東京防衛軍司令官として終戦を迎えている。
その孫で国際政治アナリストの飯村豊氏(78)は、インドネシアやフランスで特命全権大使を務めた元外交官。外務省官房長時代には、田中眞紀子大臣と対峙したことで知られる。
“最大の壁”とされていた
NHKが総力戦研究所を舞台としたドラマを作っていたことは、7月までまったく知らなかったのですが、実はNHK関係のプロダクションの方から戦後80年を迎えるのを機にNHKスペシャルの番組として総力戦研究所についてのドキュメンタリーを作りたいと考えているという相談を受け、6月末から三度ほど、我が家で取材に応じました。丁度最後の取材が終わった頃、7月下旬に別の方から「ドキュメンタリーではない番組が流されるようだ」というお話を聞きました。急な話に驚いて、NHKのホームページを開いてみると、このドラマの7月16日付けの告知が出ていたのです。
猪瀬直樹さんが書かれたノンフィクション『昭和16年夏の敗戦』が「原案」とされていて、近衛文麿や東條英機、木戸幸一内大臣、昭和天皇などが実名で登場します。ところが総力戦研究所の関係者は、すべて仮名でした。
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source : 文藝春秋 2025年10月号 終戦80年 NHKスペシャルは歴史の冒瀆だ

