10年以内にニューロン移植で脳とAIをデジタル接続する

サイエンス社ホダックCEO本邦初インタビュー 後編

須田 桃子 科学ジャーナリスト

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ビジネス サイエンス

 前編ではサイエンス社(本社=米国カリフォルニア州)が手がける視覚補助装置を紹介したが、同社は脳とコンピュータをつなぐブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)技術でも、世界的な注目を集めている。インタビュー後編では、同社が独自に開発する「バイオハイブリッドBCI」について聞いた。

サイエンス社CEOのマックス・ホダック氏(筆者撮影)

 ――「バイオハイブリッドBCI」のコンセプトと、従来のBCIとの違いを教えてください。

 古典的なBCIの目標は、脳内のニューロンが表現している情報を読み取ることです。BCIにはさまざまなタイプがあります。脳波計のように装着型のものもあれば、脳の内部に電極を埋め込むタイプ、超音波を使うもの、血管内にステント電極を置くものなどもあります。それぞれの方式によって、脳の中からどんな情報を、どれくらい細かく、どれくらい速く、どの程度「意識的な操作」として取り出せるかが異なるのです。

 現代の神経科学が対象としている中心的な単位は、「ニューロン1個の発火(スパイク)」です。ところが、非侵襲型の装置(頭の外から計測するタイプ)では、このスパイク信号を直接とらえることができません。そのため、脳の内部で起きている現象を“粗く平均化した近似データ"として扱うしかないのです。

 もちろん、それでも役に立つ応用はいろいろありますが、なぜ世界中から莫大な資金や才能がこの分野に集まっているのかを考えるなら、単に“頭の中で念じるだけで(コンピュータ画面上の)カーソルを動かす"ことが目的ではないと思います。私たちが目指しているのは、脳とコンピュータの間で、はるかに高密度な情報のやり取りを実現することです。たとえば、脳の左右の半球同士が行っているような、非常に広帯域で緊密な通信に近づけるBCI技術をつくる。それが、私たちの目指している“統合のかたち"なのです。

「生きた細胞」を使う理由

 そのためには個々のニューロンにかなり近づく必要があります。これまでに知られている方法はどれも侵襲的で、脳に物理的な電極を挿入するか、脳を遺伝子改変して大規模な光学システムを使うかになりますが、どちらも人間で行うには深刻な制約があります。

 まず人間の脳の遺伝子改変は、現実的に広く実用化できる方法ではありません。また、電極を貫通させれば、高解像度を得られる代わりに脳を傷つけてしまう。脳には「空きスペース」がないので、電極を挿すたびに数千個の細胞が破壊されてしまうのです。重度の脊髄損傷やALS(筋萎縮性側索硬化症)、閉じ込め症候群の患者なら臨床応用も正当化されるかもしれませんが、広帯域で緊密な通信をするために何百万本もの電極にスケールアップするのは不可能です。

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