親子のかたちは時代を映す。昭和59年から40年続いた長寿連載、一号限りの豪華リバイバル
母親は厳しかったです。かといって父親が優しくどっしりしているわけでもなく、同じく厳しかったです。子供の頃は毎日、怒られていました。悪いことをしても、悪いことをしてなくても。大人になって人生経験を積んだ今、若き両親を振り返ると一言、「キャパが狭かった」これに尽きると思います。
父はドカーンと大きく、手のつけようもない感じで怒りました。短距離走の怒り方。一方母親は朝起きた瞬間から寝るまで、常にイライラしてる感じ。長距離走の怒り方。「おはよう。挨拶は大きな声でしなさい。背筋伸ばしなさい。さっさと歩きなさい。早く座りなさい。ちゃんと襟出しなさい。髪は後で直しなさい。早く食べなさい。自分で用意しなさい。よく噛みなさい。姿勢。飲み物を飲みなさい。肘をつかない。返事をしなさい。食べながら喋るんじゃない。片付けなさい。テーブルを拭きなさい。早くしなさい」。実況中継のように、一挙手一投足、なんか言われました。

私には二つ上の兄と四つ下の妹がいます。いわゆる中間子の悲哀というやつです。まだ時代の名残もあり、長男は大事、特別。そして、四つ下の妹はいつまで経っても小さな可愛い子供。やっちゃんは女の子だからお手伝い(家事)をしなさい。でも◯◯ちゃん(妹)は小さいからしなくていい。それは永遠に続きました。お小遣いは、お兄ちゃんは大きいから多いけど、やっちゃんはまだ小さいから◯◯ちゃんと一緒。え? 私は大きいんですか? 小さいんですか? てなことは往々にしてありました。これを人に話すと共感する中間子と、「ひどい」と怒る人に分かれます。中間子は上下の兄弟姉妹と違う職業につくと世間で言われますが、うちもその通りになりました。
中間子だからか、私の元々の性格なのか、私は冷めるのが早かったというか、この扱いに対して、ま、今でも思い出して腹が立つこともありますが、親も人なり、子も人なり、完璧ではないと、子供の自分はお金を稼ぐことはできないし親がいなければ生きてゆけないので、理不尽に怒っても許されるあの思春期真っ只中でさえグレるなんて発想、毛頭起こりませんでした。
愛されてはいるけれど
何が厄介って、十分に愛されているのがわかるんですね。たまに根拠は何? というくらい褒めてくることがあります。例えば高校の入学式の時のことなど「やっちゃんが体育館に入ってきた瞬間に光が射したの。クラスの中でも、すっくと立つやっちゃんの周りだけスポットライトが当たっとるみたいに、光っとったじゃんねぇ」と、これを心の底から嘘でなく言うんですね。いまだに。
否定系がデフォルト、やることなすこと注意してくる過干渉な母親でしたが、三つだけ、何も言ってきませんでした。勉強と手芸と読書。「勉強しなさい」は一度も言われたことがありません。ごちゃごちゃ言われず、自分のペースでできるので、自主的に勉強するようになりました。母親自身も編み物をしていたからでしょうか、手芸に関しても何も言ってきませんでした。手芸だけは、出来た物を見せると褒められました。私は手芸に没頭しました。読書もそう。「本を読め」とは言われませんでした。夜、本を読んでいると逆に「目が悪くなる! やめなさい!」と怒られましたが、夜以外は何も言われず、小学生の頃は毎日本を読みました。
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