「無駄にしくじらず」デミ・ムーア

第235回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家

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エンタメ 映画

『サブスタンス』(2024)に出会わなかったら、私はデミ・ムーアの存在を無視しつづけていたかもしれない。

 正直に告白するが、この女優には本当に縁がなかった。そもそも、出会いがよくない。マンハッタンの映画館でムーアの出世作『セント・エルモス・ファイアー』(1985)の看板を見かけてふらっと入ったときは、あまりの虚ろさに、30分で席を立ってしまった。あのときは、旅先で貴重な時間を空費するわけにはいかない、と思ったものだ。本当は、時間の空費も旅のうちなのに……。

 そんな寂しい出会い方をしたデミ・ムーアだが、40年後の彼女は異次元で羽ばたいていた。

 ムーアが扮したのは、エリザベス・スパークルという50歳のハリウッド女優だ。歩道に手形が残されるほどの大スターだった彼女だが、ルッキズムがすべての芸能界に、容赦なく追い立てられる。長年テレビで放映されつづけてきたエアロビクス番組からも、あっさりと降板させられてしまった。

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source : 文藝春秋 2026年1月号

genre : エンタメ 映画