眼光が鋭い。頬骨が高い。口もとが裂けている。まるで猛禽類だ。昔ならリチャード・ウィドマークやリー・ヴァン・クリーフの顔が浮かんだが、近ごろはめっきり減った。そんななかで孤塁を守っているのがウィレム・デフォーだ。
その容貌のせいか、デフォーは映画のなかで死ぬことが多い。有名なのは『プラトーン』(1986)の米軍軍曹や、『スパイダーマン』(2002)のグリーン・ゴブリンだろうが、『最後の誘惑』(1988)や『ワイルド・アット・ハート』(1990)、『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』(2000)などでも、しっかり落命していた。死ぬのが似合う容姿、というべきか。昨今のスター俳優のなかでは少数派に属する。

デフォーの顔を私が覚えたのは、けっこう早い時期だ。出会いは『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984)。ヒロイン役のダイアン・レインをさらうギャングのリーダー役に扮し、最後は主人公のマイケル・パレと対決して、お約束どおり敗れる(この映画では人が死なない)。
翌年公開された『L.A.大捜査線 狼たちの街』のデフォーも印象的だった。紙幣偽造団のリーダーで、かつては画家だったという設定。捜査当局の執拗な追跡に逆切れして凄まじい反撃に出る場面が見ものだが、自作の絵を焼き、贋札づくりに突き進む決意を示す姿も悪魔的だった。捜査陣を地味な俳優で固め、悪役にデフォーやジョン・タトゥーロを配するあたりは、曲者監督ウィリアム・フリードキンの面目躍如というべきか。
ウィレム・デフォーは、1955年、ウィスコンシン州アップルトンに生まれた。すでに70歳だ。本名は父親と同じウィリアムだったが、オランダ系(血縁はない)とも聞こえるウィレムというニックネームを、幼時から好んだらしい。
映画デビューはさほど早くないが、スタートを切ってからの速度や幅の広さは抜きん出ていた。アートハウス映画と商業的大作の間に垣根を設けず、多彩な体技で役柄を染め上げる力量を、すぐれた監督たちが評価したためだろう。マーティン・スコセッシやデヴィッド・リンチが監督した作品名はすでに挙げたが、近ごろでも、ウェス・アンダーソンやヨルゴス・ランティモスの作品に欠かせぬ存在となっている。
ウェス・アンダーソン作品では、『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)を取り上げたい。望みどおり遺産を相続できなかった富豪の息子の側近ジョプリングに扮し、高価な絵の遺贈を受けた主人公(レイフ・ファインズ)を、猟犬のように追いまわす。粘着力に満ちた偏執狂的芝居が、掌中に収められている。
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