「大物感と〔縮む芝居〕」アダム・ドライヴァー

第232回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画

 吠えるだけや凄むだけの悪役ならば、彼は引き受けなかったのではないか。

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)でカイロ・レンに扮したアダム・ドライヴァーを見たとき、私は反射的にそう思った。

 カイロ・レンは、ダース・ヴェイダーの孫である。非情を極めた祖父に憧れ、50年代の車のフロントグリルを思わせる黒いマスクを外さぬまま、無慈悲な殺戮を繰り返す。190センチ近い長身。祖父にあて声も深いが、その声はときおり微妙に裏返る。映画の後半、ようやくマスクを脱ぐと、鼻筋の通った端整な顔が現れる。ただし、のっぺりした美貌ではなく、怪異で不安定な気配が漂う。

 このときすでに、アダム・ドライヴァーは合わせ技を用いていた。巨大なスケールを感じさせる一方で、ゆらぎや震えといった変動的な要素が、「霜降り」のように織り込まれているのだ。この二重性は、後年の『フェラーリ』(2023)や『メガロポリス』(2024)でアップグレードされるのだが、それ以外にも指摘しておきたい技がある。

アダム・ドライヴァー Ⓒdpa/時事通信フォト

 日本では『フォースの覚醒』の少しあとに公開された『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(2014)で見せた姿だ。こちらはノア・バームバック監督の辛辣なコメディだが、ドライヴァーはヒップスター(流行先取り派)の仮面をかぶった出世主義者の青年に扮して、スパイシーないかがわしさを見せる。

 青年は、中年映画監督のベン・スティラーに取り入る。自転車で移動し、ビニールのレコードで音楽を聴き、フェドーラをかぶって、歯の浮くようなお世辞を並べる。ネオ・レトロの小道具も効果を発揮し、不安な中年のスティラーはころりと転がされる。ドライヴァーの曲者ぶりが生かされた映画だった。

 1983年生まれのアダム・ドライヴァーは、カリフォルニア州サンディエゴで幼少期を過ごし、7歳からはインディアナ州ミシャワカで育った。『J・エドガー』(2011)や『フランシス・ハ』(2012)など、デビュー直後から渋い作品に出会っているが、15年以降の快進撃はご承知のとおりだ。『パターソン』(2016)、『ブラック・クランズマン』(2018)、『マリッジ・ストーリー』(2019)……。どれも堂々とした印象で、役柄の演じ分けが見事だ。

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source : 文藝春秋 2025年10月号

genre : エンタメ 映画