たしか三島由紀夫と同い年だから、今年はトニー・カーティスの生誕100年に当たる。ふたりに別段、共通点は見当たらない。むしろ対照的だ。異様に自意識が強かった三島と、ときには無意識過剰と思わせたカーティス。まあ、深追いはすまい。とりあえず、生年の一致は偶然ということにしておこう。

私がトニー・カーティスの名を覚えたのは、1960年前後のことだった。『スパルタカス』(1960)や『隊長ブーリバ』(1962)といった史劇で、彼の美貌をぼんやり眺めていたのだ。
後者のカーティスは、ユル・ブリンナーの息子役というより、クリスティーネ・カウフマンの恋人役という印象が強かった。カウフマンは1945年生まれで、年齢は私に近い。その美少女が、20も歳がちがうカーティスの恋人役を演じた。しかも映画公開後、結婚までしてしまったのだから、当時はちょっとした騒ぎだった。理不尽に感じた記憶もある。
そんな覚え方をしたせいもあって、私の頭のなかのトニー・カーティスは、にやけた色男の代表選手だった。生涯に結婚6度(最初の妻がジャネット・リー)という勤勉さにも驚かされるが、人気が出はじめた50年代前半の映画を見直すと、まさしくピカピカの二枚目だ。興味のある方は、『アリババの復讐』(1952)や『魔術の恋』(1953)といったのんきな映画を見ていただきたい。
トニー・カーティスは1925年、ニューヨークのイーストハーレムで生まれた。父親がハンガリー出身、母親がスロヴァキア出身で、ふたりともユダヤ人。カーティス自身も6歳まではハンガリー語しか話さなかったらしい。第二次世界大戦では潜水艦乗組員として従軍し、東京湾で日本の降伏を知った。戦後、改めて演劇を学び直し、48年、ハリウッドでユニヴァーサル映画と契約を結ぶ。
カーティスは、ただの美男ではなさそうだ。そんな風に思いはじめたのは、少しあとになってからだった。
『成功の甘き香り』(1957)、『お熱いのがお好き』(1959)、『絞殺魔』(1968)……思い出すままに並べてみても、癖の強い役が少なくない。
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