「いっぱいいっぱいでした」稀代の人気力士がみせた美学

第59回

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 ウクライナ出身、新関脇の安青錦が優勝決定戦で横綱豊昇龍を制し、初優勝。同時に大関昇進を決めた大相撲九州場所で、彗星のごとく出現した若武者に大相撲界は沸いている。その陰で、かつて星のように輝いていた稀代の人気力士――遠藤が引退した。振り返れば2010年以降、野球賭博や八百長問題などで激震のなかにあり、人気低迷にあえいでいた大相撲界で、救世主のように現れたのが遠藤だった。髷も結えないザンバラ髪のイケメン力士は、瞬く間に人気を呼び、一世を風靡。当時、相撲ファンの女性を指す“スー女”なる新語も生まれ大相撲人気の起爆剤ともなった。

すがすがしい表情で引退会見に臨んだ遠藤 ©時事通信社

 華麗な出し投げを得意とし、相撲の巧さには定評があったのだが、膝のケガを抱えて最高位は小結で終わってしまう。 いかにもストイックな力士だった。膝にサポーターを巻かず、素のままに土俵に上がるのを美徳としていた。取材陣に対しても、あえて笑顔は見せず、常に寡黙で言葉少なな力士でもあった。

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source : 文藝春秋 2026年1月号

genre : エンタメ スポーツ