“最後の愛弟子”がつなぐ 「大鵬道場」の看板

第57回

エンタメ スポーツ

 昭和の大横綱大鵬の“最後の愛弟子”である、元十両大竜の大嶽親方が、この九月場所で定年を迎えた。「大鵬道場」の看板を掲げる大嶽部屋では、大鵬の孫である幕内王鵬、十両復帰を目指す夢道鵬、納谷の三兄弟が鎬を削っている。

 大嶽親方が名門部屋を継いだのは、平成22年のことだ。大鵬の娘婿で大嶽部屋を継いでいた元関脇の貴闘力が不祥事で相撲協会を退職する羽目になり、部屋は存続の危機に陥った。当時、部屋付きの親方だった元大竜に、昭和の大横綱は「お前しかいない。部屋を頼む」と頭を下げたという。「十両までしか出世できなかった自分が、大鵬の大看板を背負うなど、とんでもない。荷が重すぎます」と再三固辞するも、初めて見る師匠の涙に、覚悟を決めたのだという。

定年を迎えた大嶽親方 ©共同通信社

 そしてこのたび、大嶽部屋は元幕内玉飛鳥の熊ヶ谷親方が名跡変更をし、継承することが発表された。大嶽親方はいう。

「実は、他の部屋に吸収合併を頼んでいて、その方向で話が進んでいたのです。でも『あの大横綱の大鵬が弟子の私に頭を下げてまで守りたかった部屋。ここで大鵬道場の看板を下ろすのは遺志に反するのではないか』と思い直したんです」

 そこで大嶽親方は所属する二所ノ関一門の親方衆に相談を持ちかけた。理事である元横綱大乃国の芝田山親方や元関脇琴ノ若の佐渡ヶ嶽親方、元関脇安芸乃島の高田川親方が、大鵬道場の名を残すべく尽力してくれたのだという。白羽の矢が立ったのが、片男波部屋の部屋付き親方である元玉飛鳥だった。いずれ大鵬の孫の誰かが大鵬道場を継ぐのは、いわば既定路線。大嶽親方が一度は吸収合併の道を選択した理由も、「部屋の師匠になるのは大変なこと。こちらの都合で『中継ぎ』のような状態になるのは、あまりに申し訳ない」との思いからだった。しかし、二所ノ関一門の誇りでもある大横綱の看板を守るべく親方衆が動き、全面協力。元玉飛鳥も快く大役を引き受けてくれたのだという。

「すべて事情をわかったうえで『是非、やらせてください』と言ってくれましてね。本当にありがたいことです」

 天上の大横綱も、一門が結束して守った看板を空から見下ろし、さぞ喜んでいることだろう。

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source : 文藝春秋 2025年11月号

genre : エンタメ スポーツ