“小さな島国”に収まらない大横綱の旅立ち

第54回

エンタメ スポーツ
白鵬と筆者 Ⓒ文藝春秋

 先の五月場所後、大の里が横綱昇進する慶事のなか、元横綱白鵬が相撲協会を電撃退職したとのニュースが駆け巡った。幕内最多優勝記録は45回、大相撲史を塗りかえた稀代の横綱である。振り返れば、2010年前後、白鵬のひとり横綱時代に起こった角界の不祥事――野球賭博や八百長問題で人心が離れ、震撼する相撲界を支えた功労者でもあった。東日本大震災の慰問では、白い肌を日焼けさせながら10ヶ所の被災地を回り、鎮魂の横綱土俵入りを見せていた。

 しかし、その一方でサービス精神が行き過ぎた言動や、粗暴にも見える相撲の取り口が物議を醸してもいた。毀誉褒貶著しい横綱だったと言えよう。

 昨年3月、宮城野部屋の師匠として弟子を預かっていた元白鵬は、弟子によるいじめ問題が発覚、隠蔽工作をした由で“師匠不適格”の烙印を押され、無期限の部屋閉鎖を申し渡されていた。解除を待たずに、相撲協会を辞したのである。

「相撲協会が白鵬を追放した」「差別ではないか」との感情的なファンの声も聞くが、出身地や現役時代の功績とは別問題。あくまでも“白鵬個人”の資質が問われたと筆者は思う。振り返れば、元横綱曙や、三代目若乃花も自らの意思で退職した。朝青龍、日馬富士は暴力問題を起こし、一世を風靡した貴乃花も、騒動を巻き起こした挙句、角界を去っていった。

 モンゴル出身力士の先駆けとなった旭鷲山や旭天鵬らを知り、日本人女性と結婚、モンゴル国籍から日本に帰化した某ベテラン相撲カメラマンがいう。

「日本人は農耕民族だよね。畑を耕し、種を蒔いて育て、月日を掛けてやっと収穫する。まさに大相撲の原点だ。われわれモンゴル人は、チンギス・ハーンに見るように、騎馬民族で本能的に戦う部族なの。遊牧民でもあり、家畜を草原で飼って、草を食いつくせば次の場所に行くだけなんだ。根本的に違うんだよね」

 この言葉が脳裏に焼き付いている。白鵬は、相撲協会のような狭い世界――小さな島国に収まる必要はないのだろう。

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source : 文藝春秋 2025年8月号

genre : エンタメ スポーツ