力士の“気”で空気一変 60年ぶり新会場

第55回

エンタメ スポーツ
名古屋場所新会場のIGアリーナ Ⓒ時事通信社

 灼熱の名古屋場所。初日恒例の理事長挨拶での、八角理事長の言葉だ。

「新しく完成しましたこの素晴らしいIGアリーナでこけら落としとなります。力士たちはこの名古屋の地、IGアリーナで新たな歴史を刻むにふさわしい熱戦を繰り広げてくれることと存じます」

 これまで約60年に渡り愛知県体育館で開催されていた大相撲が、国内最大級の1万7000人収容のIGアリーナで賑々しく初日を迎えていた。大相撲本場所としての座席数は7800。その狭さに改善要望の声が大きかった桝席は、1.3倍の広さに。5階建てドーム型施設で、天井の高さは30メートルにも及ぶ。たっつけ袴姿で観客席に弁当や土産物を運ぶ、相撲案内所の出方さんが苦笑する。

「館内が広すぎてね。歩数計を見たら3万8000歩も歩いていたんだよ!」

天井の高さに観客からも驚きの声があがった Ⓒ共同通信社

 御年94歳にして連日新アリーナで取材に勤しんだ、元NHKアナウンサーの杉山邦博氏が秘話を聞かせてくれた。

「私は会場が愛知県体育館に移る前の“金山体育館”を知る数少ない人間です。名古屋場所がまだ本場所に昇格する前、昭和29(1954)年に“準本場所”として金山体育館で試験的に始まりました。昭和33年から本場所となり、冷暖房などはもちろんない。花道には大きな氷柱と今でいうミスト――噴霧器のようなものが設えてあり、記者たちはみんな短パンにランニング姿で取材をしていたものです」

 ちなみに金山体育館での初の本場所を制したのは初代横綱若乃花。愛知県体育館に移った昭和40年の名古屋場所では、横綱大鵬が優勝賜杯を抱いたという。

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source : 文藝春秋 2025年9月号

genre : エンタメ スポーツ