弓取の名手 師とともに去りぬ

第53回

エンタメ スポーツ

 大の里の横綱昇進に沸く相撲界。先の五月場所で48歳のあるベテラン力士が土俵を去った。弓取の名手として大相撲の土俵を締めていた、伊勢ヶ濱部屋の聡ノ富士だ。弓取式とは、結びの一番のあと、勝者に代わって勝利の舞を踊るという意味があり、2メートル以上ある弓を操る相撲界伝統の儀式だ。

美しい所作で好角家をうならせてきた聡ノ富士 ©時事通信社

 横綱のいる部屋や一門内から幕下力士が選ばれ、その大役を担うのだが、聡ノ富士は、かつての弟弟子だった横綱日馬富士、のちに昇進した横綱照ノ富士に代わる弓取力士として、2013年初場所から断続的に25年初場所まで務めた。それまでの歴代通算記録は637回で、聡ノ富士がこの記録を更新したという。きりりとした面持ちで華麗に弓を操る姿は、多くの相撲ファンをうならせていたものだ。当初、相撲文化に精通していた元幕内大飛の先々代大山親方に所作の意味を教わったのだという。

「弓取は相撲を取るよりも緊張していましたね(笑)。弓を落とすなどの失敗は今まで一度もありません。弓取とは、空気中の邪気を払うもの。まず、土俵の悪い気を弓で掘り起こし、それをならす動作のあと、四股で踏み固めて邪気を封じ込めるんです。常に、ひとつひとつの所作の意味を意識してやっていました」

 29年にわたる長い現役時代には関取衆の付け人も務め、ちゃんこ作りの腕もプロ級だ。なかでも聡ノ富士の作るフレンチトーストは絶品で、力士たちの誰もが大喜びだったと聞く。

 現在は伊勢ヶ濱部屋に籍を置く元横綱白鵬の宮城野親方も、断髪式を終えた“大兄弟子”を労った。

「私が新弟子時代に通っていた相撲教習所の指導員が、聡ノ富士さんだったんですよ。そう考えると本当に長い相撲人生でしたよね」

 元横綱旭富士の伊勢ヶ濱親方は、7月の誕生日に定年を迎えて次代に部屋を譲る。この五月場所が師匠としての最後の場所となった。

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source : 文藝春秋 2025年7月号

genre : エンタメ スポーツ