世界で最も謎めいた地へ
タイ、ラオス、ミャンマー、中国にまたがる国境地帯、通称ゴールデン・トライアングルは、アヘンの原料であるケシの世界的な産地として有名で、かつてはクンサーという有名な麻薬王が支配していた。その後は少数民族のワ人が支配権を握り、ミャンマー北部の山岳地帯にワ州という半独立的な民族国家をきずいたが、その実態はほとんど知られておらず世界で最も謎めいた地といわれている。日本でワ州を知っている人など、高野秀行さんの『アヘン王国潜入記』の読者ぐらいではないだろうか。内部に潜入し、自らアヘン栽培に精を出した高野さんの本では、どこか牧歌的な農村のイメージがつよかったワ州だが、書く人が変わるとこうも違うのか。本書を読むかぎり、ワ州はまったくとんでもないところである。

山奥の密林で古来、首狩りの風習をのこしつつ暮らしてきたワ人の領域に、戦後、共産化した中国の巨大な力がおよんだ。その侵略に対抗するために彼らが選んだのがケシ栽培だったのだが、その裏ではアメリカの各機関やミャンマーの軍事政権の思惑が交錯する。共産化の波を防ぎたいCIAは当初、ワ人の麻薬製造を支援するのだが、その一方で国内へのヘロイン流入をとめたいDEA(麻薬取締局)はゴールデン・トライアングルのケシ撲滅をはかる。善玉の理想漢に悪玉の麻薬王が登場し、スパイが入り乱れ、まさに魑魅魍魎の世界。ミステリー小説さながらの展開にページをめくる手がとまらず、麻薬世界の裏側をこんなに書いてしまって著者は命を狙われないのかと心配になるほどだ。
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