山ちゃん見参!

第16回

山田 詠美 作家
エンタメ 社会

 少し前、佐川急便の元従業員の女性による「ちゃん付け」訴訟なるものが話題になっていた。男性従業員が彼女の名前を「ちゃん付け」で呼んだり、「体型いいよね」とか、「かわいい」などと話しかけたのがセクシャルハラスメントに当たるとの判断。東京地裁は男性に慰謝料の支払いを命じる判決を言い渡した。女性は、鬱病や適応障害を発症して休職に追い込まれていたとか。

 TVの情報番組などでは識者を自任するコメンテーターたちが、「ちゃん付け」がハラスメントである今の常識にアップデート出来ていないと鬼の首でも取ったかのように語っていたが、本当にそれだけだろうか。

 私は、「ちゃん付け」以前に、男性が女性従業員に向けていた性的視線が問題なんだと思う。毎日毎日、そんな目で見られて、容姿について話をされたりしたら、不快極まりないだろう。そして、追い打ちをかけるように「ちゃん付け」。つまり、この男の「ちゃん付け」は、親しみを込めた同僚に対する呼びかけではなく、性的対象に対する欲望の発露なのである。「ちゃん付け」をする際には、必ず、彼女の気に染まない性的なニュアンスが含まれていた筈だ。距離を詰めて個人的交際の域に持って行きたい時の「ちゃん付け」と親しみ故に使うそれは全然違う。

山田ちゃーん、原稿進んでる?

 と、ここで思うのは、その「ちゃん」を名字に付けたのか下の名前の方に付けたのか、ということだ。名字の「ちゃん付け」は、放送業界、芸能界では、私もよく耳にした。わざとそちらの業界馴れをアピールしているみたいで、やな感じだと思った。生理的に私とは合わない。出版業界では滅多に使わないのではないか。

 たとえば、私の山田に「ちゃん」を付けて、「山田ちゃーん、原稿進んでる?」などと言われたら虫酸が走る。おまえに渡す原稿などない! ときっぱりと拒否するだろう。しかし、上の漢字を取って「山ちゃん」だったらどうだろう。「山ちゃん、今月の締め切り過ぎてるよ」と言われたら? ごめんなさーい、すぐやります! と平身低頭の体(てい)で謝るだろう。

 不思議だ。山田ちゃんは業界臭(除く、出版系)がぷんぷんするのに、山ちゃんには、まったくしない、どころか、香ばしい黒胡椒が鼻をくすぐる手羽先のごとき好ましさが漂うではないか。まさに「世界の山ちゃん」的な……ちなみに、この「世界の山ちゃん」は、名古屋発祥の居酒屋チェーン店で、スパイシーな「幻の手羽先」が名物。あー、黒ホッピー飲みたい。

 話は変わるが、週刊文春でエッセイを連載中の平松洋子さんが、同じ週刊文春でやはり毎週書いていらっしゃる上沼恵美子さんをすっごくおもしろいと絶讃していた。それを読んで、おお、やっぱり! と思った。私もいつも大笑いしていたのだ。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

初回登録は初月300円・1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

18,000円一括払い・1年更新

1,500円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2026年2月号

genre : エンタメ 社会