恐怖のアラフォー・アタック

第15回

山田 詠美 作家

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エンタメ 社会

 雑誌「週刊現代」に連載している阿川佐和子さんと檀ふみさんの交換日記エッセイがおもしろくて毎回楽しみにしている。昔、某料理雑誌の連載「ああ言えばこう食う」も二人の掛け合いが軽妙で楽しくて大好きだった。あの連載が、二人の打打発止のやり取りを側で耳にした五木寛之さんの発案だったと知って驚いた。

 今回問題視したいのは11/10号のこのエピソード。

 阿川さんが「アラフォー世代」の男性四人と食事をした時、近くのテーブルでも七十代前半ぐらいの紳士四人が会食をしていた。学生時代の仲間の集まりという雰囲気の彼らは、時に真剣に時に朗らかに、つまり、大変良い感じでひとときをシェアしていた……のであるが、ふと気付くと、阿川さん側のテーブルの二人がこそこそと笑っていた。どうしたのかと彼女が尋ねると、紳士たちを盗み見ながら彼らは言った。

「ヤバイっすよぉ」

 何がヤバイのかと言うと、紳士四人が紙の手帳を広げて、それぞれのスケジュールを確認し合っていたから。意味の解らない阿川さんに、「アラフォー」のひとりが言う。

「だって今どき、紙の手帳を使っているなんて……」

 その直後に、私も使ってますけど、と言って、阿川さんが自分の手帳を取り出して、こちら側の四人が気まずい表情を浮かべた、というオチがつく。

 あのさ。言って良いですか? 「ヤバイ」のきみたちの方だよ? 自分たちとは何の関係もない年配者たちを見て、マウントを取って嘲笑う。その姿、格好悪いと思わない? 全然セクシーじゃない。ねえ、きみら、もてないよ? 冷笑はひとりで浮かべるべし。その際のシニカルな笑顔はいっそセクシーかもしれない。

 昔、井戸端会議をしている主婦たちが、通り過ぎた近所の奥さんに笑顔で会釈し、直後にせせら笑う図というのを揶揄する人がいた。私もそのひとりで、言いたいことがあるなら、こそこそ噂話をしないで直接話せば良いのに、なんて思っていた。その時も感じたのよ。全然セクシーじゃないじゃん! って。それと同じような印象を、「アラフォー」四人組とやらにも持ったのである。主婦の井戸端会議なんて、もうほとんど目にしない。でも、きみたちが、その伝統を引き継いでくれていたんだね、アラフォー諸君!(ええ、もちろん皮肉です)。スマホの中にスケジュールを入れていることと、きみたちの仕事のポテンシャルには何の関係もないよ。予定表だけ緻密に書き込んで、何も実行に移せなかった夏休みの終わりの子供は、そこら中にいたしね。あんたたち、それと一緒。

 複数より単数の方が、はるかにセクシーだというのは、私の持論。たとえば、不倫を断罪して大騒ぎするその他大勢より、当事者である、たったひとりで礫(つぶて)に耐える女の方が比べものにならないくらいセクシーである。映画「マレーナ」の主役で、イタリアの宝石と呼ばれたモニカ・ベルッチを見よ!(あれは、濡れ衣から始まっているのであるが)

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source : 文藝春秋 2026年1月号

genre : エンタメ 社会