著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、山内マリコさん(作家)です。
子供時代は昭和後期、思春期は平成初期だった。サラリーマンの父親と専業主婦の母親、それに子供2人が、当時のスタンダードな家族像。
私も2つ上に兄がいる。小学生のころを思い出すと、半分くらいは兄とごろごろテレビを見ていた記憶である。夕飯どき、食事の支度にテンパった母をよそに、私たちは殿様みたいにふんぞり返ってテレビに夢中だった。8時か9時を過ぎて父が帰ってくると、元気いっぱいに「おかえりなさい」を言って歓待する。母は文字通り、そういった幸せな家族を“支える”存在だった。
典型的核家族でぬくぬく育ちながら、そのくせ私は母子家庭の友達の、働いているお母さんが羨ましかった。
ある日、こんなことがあった。
働く母親に憧れるあまり、母に突然、「なんでお母さんは働いてないの? 外で働く甲斐性がないんじゃない?」と言ったのだ。なんて恐ろしい物言いだろうと震える。しかしこの強烈な言葉が、まったく悪意なく、自分の口から、たしかに出た。
言い捨ててプイッと自分の部屋へ戻った私の元に、父がやって来た。「お母さんに謝れ!」と母のところへ連れて行かれた。母は泣いていた。母が泣いているところを見たのははじめてだった。
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source : 文藝春秋 2020年1月号