いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。
2025年1月20日に行われた、ドナルド・トランプ大統領就任式の光景は、シリコンバレーのテックエリートたちがもはや民主党の味方でもリベラルの味方でもないことをはっきりと証し立てることになった。就任式の壇上、演説するトランプの背後に美しい半円を描くように居並んだのは、ジェフ・ベゾス(アマゾン創業者)、サンダー・ピチャイ(グーグルCEO)、マーク・ザッカーバーグ(メタCEO)、ティム・クック(アップルCEO)、セルゲイ・ブリン(グーグル創業者)、そして今や世界一の大富豪となったイーロン・マスク、といったシリコンバレーのビッグテックを代表する面々。
これら、テックエリートの右旋回を考える上で象徴的と言える人物を3人挙げてみる。ピーター・ティール、イーロン・マスク、第二期トランプ政権下で副大統領を務めるJ・D・ヴァンス。そして、彼ら3人に間接的ないし直接的に思想的影響を与えたとされる人物こそがカーティス・ヤーヴィンに他ならない。

J・D・ヴァンスとピーター・ティールの関係は比較的よく知られている。ヴァンスはイェール大学ロースクールに在学中、ティールの講演を聞いたことをきっかけに、法曹界のキャリアからドロップアウトすることを決めた。2016年にはティールが創業したベンチャーキャピタル(VC)に転職。「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」に住む白人労働者階級、言い換えれば「アメリカの繁栄」から取り残された人々の窮状と怒りを描いてベストセラーとなったヴァンスの回想記(メモワール)『ヒルビリー・エレジー』が出版されたのも同年で、推薦文を書いたのは誰であろうティールであった。ヴァンスは2021年、上院議員選へ出馬表明をしたが、その際に資金面での支援を行ったのもティールである。以来、ティールはヴァンスの師でありメンターであり続けている。
ティールの思想を一言で要約すれば、保守系のリバタリアンということになろう。若い頃にイーロン・マスクらとともにスタートアップ企業ペイパルを立ち上げ、シリコンバレーで頭角を現す。技術停滞への危機感を軸に、硬直化をもたらす官僚主義的規制やリベラル的価値観を敵視。「自由と民主主義はもはや両立しない」という挑発的な発言に見られるように、政治依存を減らしながらテクノロジーや制度設計によって自由の領域を拡大するべきであるという発想が根底にある。ティールの考えでは、真の革新を促すのは、民主主義のようなボトムアップ型の意思決定モデルではなく、スタートアップのようなトップダウン型の意思決定モデルに他ならない。スタンフォード大学のある講義のなかで、「スタートアップや創業者は独裁的なほうに傾きがちだ」と彼は言い、それはもちろん良いことなのだと付け加えた。「統制がとれない大衆よりも専制君主に任せるべきだ」。
独裁君主制すら擁護しようとする、こうした思想の背景にヤーヴィンからの影響を見て取るのはたやすい。
政府を“リブート”する
カーティス・ヤーヴィン。ソフトウェア開発者兼ブロガー(筆名はMencius Moldbug)にして、「暗黒啓蒙」のキープレイヤーの一人。ティールは、過去にヤーヴィンが立ち上げたスタートアップ(Urbit/Tlon)に出資していた。「2016年の大統領選をティールの自宅で一緒に見た」とヤーヴィンが語るなど、私的な交流もあったと見られる。思想面では、上述の「自由と民主主義はもはや両立しない」に象徴されるティールのアンチ・リベラリズム的な思想に影響を与えたことが指摘されている。ヤーヴィンの反-民主主義的なヴィジョンによれば、国家は非効率な民主的統制よりも「CEO」型の君主的統制によってスタートアップ企業のように再編されるべきであるとされる。さらに2012年頃には、「すべての政府職員を退職させよ(Retire All Government Employees、略してRAGE)」という提案を打ち出している。RAGEの目的は、政府を「全能の執行権力」の下で再起動(リブート)することにある。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
初回登録は初月300円・1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
電子版+雑誌プラン
18,000円一括払い・1年更新
1,500円/月
※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事が読み放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年7,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 塩野七生・藤原正彦…「名物連載」も一気に読める
- 電子版オリジナル記事が読める
source : ノンフィクション出版 2026年の論点

