インドといえばカレーとヨガ。まだそんな風に思っている人はいないだろうか。理科系に強くて、コンピュータが得意。それも間違いではない。ただそれだけというなら、もう時代遅れのインド観ということになるだろう。インドは日本の命運を左右する「超」がつく重要国になっているからだ。
私がNHKのニューデリー支局長としてインドに赴任したのは、今から20年ほど前のこと。当時、成田からは首都デリーへの週1本の直行便ができたばかりだった。駐在プレスの日本人記者は独身か単身という生活困窮地。食材はバンコクへの買い出し休暇で調達した。それがいまやデリー郊外の新興都市グルガオンには巨大ショッピングセンターが林立している。
ANAは今年10月に南インドのチェンナイ直行便の運航を始め、JALもITの中心都市ベンガルールへの直行便、そしてデリーには羽田発便の開設を発表。インドは益々近い存在になりそうだ。
政治の上でもここ数年、平成の天皇のインド初訪問、新幹線の輸出、原子力協力協定の締結、AIの共同開発合意と、日印関係は大きく前進した。超高齢社会の日本と、若い労働力と伸び盛りの消費者に溢れるインドは非常に相性がいいといわれる。JBIC(国際協力銀行)の調査では、日系製造業が長期的に有望な海外投資先と考える国は、インドが9年連続で首位となっている。文具から住宅、化粧品から農機まで様々な業種が進出し、日本企業はインドでは手に入らない生卵の生産にも乗り出している。最近話題となったのはカレーのインドへの“逆上陸”。ココイチ、ボンカレーが本場インドの市場に食い込む勢いを見せている。
インド自身の変化も激しい。グーグル、マイクロソフト、ヤフーのトップを輩出したIT人材先進国はその強みを生かし、アジアで初めて探査機を火星の周回軌道に乗せ、生体認証を導入したインド式マイナンバーで国民13億人のビッグデータを集めている。その一方で、高額紙幣(日本でいえば5千円、1万円札)を突如、使用禁止にするショック療法で改革を断行。結果、キャッシュレス化も一挙に進んだ。またトイレをなんと1億個作ると宣言し、先日、それが達成されたと発表した。まさに「インド人もびっくり」の政策が次々に実行されているのだ。
代替エネルギーへの転換からデータ・ネット社会の展開まで、インドは世界が抱える様々な課題に独自の方法で解決策を見出そうとしている。
世界は今、アメリカと中国の2極時代の只中にあるが、インドが現在の拡大を続ければ、10年後には米中印の3G(Giants)の時代へと大きく様変わりしているだろう。
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source : 文藝春秋 2020年1月号