笑い、感動、ぞくり

令和に読み継ぎたい名著「わたしのベスト3」

本上 まなみ 俳優・エッセイスト
エンタメ 読書
女優・エッセイストの本上まなみさんが、令和に読み継ぎたい名著3冊を紹介します。
本上まなみさんが今月買った10冊
 

 笑える本、感動する本、怖い本の3冊を紹介します。

『太陽の塔』は京都の冴えない男子大学生の日常がこれでもか! と詰め込まれた愛すべき小説。名言は多数、〈我々の存在によって発生する経済効果は、冬眠熊の経済効果とほぼ等しい〉、〈我々の日常の90パーセントは、頭の中で起こっている〉、〈大学生が赤ん坊の次によく眠る人種であることは言うまでもない〉等々。女性と絶望的に縁がない主人公は、初めてできた彼女に別れを告げられたあともずーっと観察を続けているという、気持ち悪…いや、涙ぐましい行動を続行中。妄想、思い込みの激しさ、空回り、と男子の生態が余すところなく詰め込まれています。わが家の6歳男児も確実に彼らのミニチュア版だ。永遠に疾走する彼らに幸多かれと願う、諧謔に満ちた1冊。

『アライバル』は家族と離れ、見知らぬ国へとやって来た移民の物語。文字はなく、絵だけのサイレント映画のよう。ひとつひとつの場面から立ち上がるメッセージは非常に豊かで、何度読んでも、十分には読み取れていないのではないかと思うほどの奥行きがある。ずっと手元に置いておきたい、話も絵も装幀もすべて美しい本です。

『六番目の小夜子』。〈学校というのは、なんて変なところなのだろう。(中略)なんと特異で、なんと優遇された、そしてなんと閉じられた空間なのだろう〉。地方の進学校を舞台にした、高校3年生の1年間の物語。3年に1度誰かが演じるという「サヨコ」を巡る校内の伝説。この謎ときを軸に、ミステリアスな美少女、沙世子が転校してくる始業式から話が始まります。瑞々しい会話、溌剌とした動きの合間に現れる不気味なシーンが印象的。文化祭の日、全校生徒が集められた体育館でのお芝居「六番目の小夜子」の場面は秀逸です。場を支配していく異様な気に押しつぶされそうで、どきどき、ぞくり。恩田陸さんの輝かしきデビュー作です。

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source : 文藝春秋 2020年1月号

genre : エンタメ 読書