慶應義塾大学教授の片山杜秀さんが、令和に読み継ぎたい名著3冊を紹介します。
平成は名著の出にくい時代だったと思う。過剰な現実が学問や文学の想像力を凌駕し、文脈を付ける前に、世界がいつも先に行く。令和に読み継ぎたい本を平成から探そうとすると、まとまった小説や評論よりも、断片的なインタヴューやツイッターや数字の羅列が思い出される。
現実の過剰性を意識させた出来事に、たとえば平成7年の地下鉄サリン事件があった。大本教事件は高橋和巳の『邪宗門』を生んだけれど、オウム真理教の事件は全体小説的な構想力ではもはや捉まらない。教祖は裁判で何も語らず、彼を取り巻く人々はあまりに多く、皆が勝手な方を向いている。そこから生まれうる本は、関係者へのインタヴュー集くらいのものだ。村上春樹の『約束された場所で―underground 2』のような。この本は物語にならぬカオスへの耐え方を教える。
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source : 文藝春秋 2020年1月号