次なるノーベル賞受賞者を探ってみる

生理学・医学賞、化学賞ダブル受賞に続くのは

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社会 サイエンス

いま知っておくべき論点を、専門家がコンパクトに解説する「文藝春秋オピニオン 2026年の論点100」。この人気ムックの記事を「文藝春秋PLUS」でも紹介します。

 2025年のノーベル賞は、久しぶりの日本人ダブル受賞となった。ノーベル生理学・医学賞を授与されたのは坂口志文氏(大阪大学特任教授)。免疫学は大阪大学のお家芸というべき分野であり、これまでにも多くの超一流研究者を輩出してきた。大阪大学としては、まさに宿願のノーベル賞であったことだろう。

 受賞対象となった坂口氏の業績は「末梢性免疫寛容に関する発見」であった。免疫は病原体やがん細胞を攻撃し、退治する仕組みだが、なぜ免疫が自分自身の体を攻撃しないのかは謎とされていた。坂口氏は、免疫の自己攻撃を抑える「制御性T細胞」が存在することを実証し、免疫学に大きな進展をもたらした。この研究は、自己免疫疾患やがんの治療にも展開されつつあり、今まで受賞していなかったのが不思議なほどの業績だ。

 一方、化学賞は北川進氏(京都大学特別教授)に与えられた。こちらは、金属有機構造体(MOF)と呼ばれる物質群の開発を讃えたものだ。巧妙にデザインされた有機分子と金属イオンを化合させることにより、ジャングルジムのように内部に空間を持った物質を創り出したのだ。この空間には小さな気体分子などを取り込むことができ、たとえば空気中から二酸化炭素や毒ガスなどだけを吸収することも可能だ。今まで化学者は、分子を様々にデザインして機能を付与しようとしてきたが、MOFは分子の作る空間をデザインし、優れた機能を引き出した。極めて大きなパラダイムシフトであったといえよう。

アルフレッド・ノーベルの金のレリーフ ©kent/イメージマート

 藤田誠氏(東京大学卓越教授)もMOFの開祖の一人であり、ノーベル賞の有力候補に挙げられてきた。今回は気体の吸収と貯蔵という点にスポットが当てられていたためか、残念ながら対象から外された。ただし、藤田氏はMOFの研究を展開して、結晶スポンジ法と呼ばれる革新的な分析手法を編み出している。また、分子同士が自然に寄り集まって複雑な構造を作り出す「自己組織化」の研究でも、極めて独創性の高い成果を挙げている。このため、今後また別の枠組みで受賞対象となる可能性は、十分にあるだろう。

 近年のノーベル賞は、環境問題や貧困の解決に貢献する技術が重視される傾向にある。そうした意味では、堂免(どうめん)一成氏(東京大学特別教授・信州大学特別栄誉教授)は有力候補の一人といえる。氏が開発したのは、太陽光のエネルギーによって高効率で水を水素と酸素に分解する触媒だ。単に粉末を水に加え、光を当てるだけでぶくぶくと泡が発生する動画は、世界の研究者を驚嘆させた。得られた水素を燃やした際の廃棄物は水のみだから、まさに究極のクリーンエネルギーだ。すでに大量生産を目指した実証実験も進行中だが、大規模な実用化がなされれば賞も間近となるだろう。

 理論化学分野では、前田理(さとし)氏(北海道大学教授)の名を挙げる声が高まっている。文科省の「世界トップレベル研究拠点プログラム」の拠点長に最年少の39歳で就任するなど、その実力とリーダーシップは高く評価されていた。新規な化学反応の発見にはこれまで、数多くの試行錯誤とベテラン研究者の勘と経験が必要であったが、氏は量子化学計算を取り入れた、新たな化学反応の経路を探索するアルゴリズムを開発。誰でも使える形でこれを提供し、大きな反響を呼んだ。生成AIとの融合なども進められており、今後の展開にも大いに期待できそうだ。

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source : ノンフィクション出版 2026年の論点

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