「全部の道を歩けば、街の形が違って見える」島田雅彦さん、國分功一郎さん対談で再認識した“散歩”の魅力

vol.166

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「文藝春秋」の編集者が明かす、電子版限定の“ここだけの話”

 私は散歩好きです。好きになったのは中高生の頃。育った阪神間は、北を六甲山脈、南を瀬戸内海に挟まれた、横に細長い土地です。神戸から大阪まで住宅街と3本の線路が東西に平行に走っています。退屈な学校帰りにいつもとは違う道を選んでみると、それだけのことで妙に面白かったんです。

 そんな散歩好きの編集者にとって、島田雅彦さんと國分功一郎さんの対談「散歩は哲学を生む」は、たいへん楽しい時間でした。アリストテレスの「逍遥学派」を引くまでもなく、歩くことと考えることは古来より分かちがたい。物理学者ハイゼンベルクの自伝『部分と全体』を読むと、20世紀の量子力学の革新が、いかに山歩きや散歩の中から生まれていったかがよくわかります。

島田雅彦氏 ©文藝春秋

 当日、島田さんからは「歩きながらやったらいいんじゃないか」とご提案をいただきました。しかし、残念ながら國分さんが花粉症。東大駒場キャンパスの國分研究室で、じっくりお話を伺うことになりました。

 島田さんも國分さんも喫煙者ということで、対談前にはお二人で一服されていました。そもそもお二人の出会いも、JT主催の「タバコを擁護する文化人をもてなす夢のような会」だったそうです。新製品のカートンもいただけて、ホクホクだったとか。その姿を眺めながら、散歩と喫煙にはどこか通じるものがあるな、と妙に納得しました。

全部の道を歩いてみる

 記事に盛り込めなかった話のひとつに、「ロードコレクター」という散歩があります。あらゆる道をしらみつぶしに歩いて収集する、というやり方です。大変時間をとるのですが、面白い。私自身も阪神間でやっていました。すると、海側の阪神電鉄、真ん中のJR、山側の阪急、3本の線路の間で、乗客の雰囲気も、街の佇まいもまるで違うことに気付く。芦屋の六麓荘に代表されるように、山側にいけばいくほど住民の収入は高くなり、家も大きくなる。反対に、海側にはサブカルチャー的な面白い店が多い。ここから、阪神間モダニズムや私鉄文化への興味が広がっていきました。

國分功一郎氏 ©文藝春秋

 東京に出てきてからは、大学近くの、下町情緒の残る谷根千でこの遊びを再開しました。すると、大通りから一本入るだけで、街の音がふっと吸い込まれるように静かになる瞬間があることに気づきました。これは都市の構造が多孔質だからです。建築家・槇文彦さんらの名著『見えがくれする都市』を、足の裏で実感した瞬間でした。

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