手伝えなかった「歴史の草稿」

大鹿 靖明 ジャーナリスト

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 私が福岡の単身赴任生活を終え、朝日新聞東京経済部に帰任して間もない2024年9月、日本経済新聞で辣腕記者として鳴らした大塚将司さんから「君の歓迎会をやりたい」と蕎麦屋に誘われた。

 大塚さんは三菱銀行と東京銀行の合併をスクープして新聞協会賞を受賞した特ダネ記者であるとともに、「日経新聞の黒い霧」を著し、日経経営陣の腐敗を糾弾したことでも知られる。私は20年来の付き合いで、私が朝日の経営上の問題を追及する際、仲間内の勉強会の講師に大塚さんを招いたこともある。

「君の歓迎会……」というので蕎麦屋に行くと、「実は、お願いがあるんだ」と切り出された。要は、彼の「次作を手伝ってほしい」という依頼の場であった。

 ワープロやパソコンが普及する以前、取材はペンでメモを取ることによって成り立っていた。大塚さんの横浜の仕事場には、彼が1975年に日経に入社して以来の手書きメモが残されていた。取材先との会食の際に聞いたことは、お店のテーブルマット紙や箸の包み紙にQ&Aスタイルでメモしてある。それが時系列に沿って綴じてあるのだ。貴重な資料だが、量が膨大。ワープロ打ちのメモもあるものの、手書きのものは独特の癖のある字体なので余人には判読しがたい。

 大塚さんはそれを数年がかりでパソコンで全部打ち直したという。「数分あれば、誰がいつどういう話をしたのか検索できるようにした」と言っていた。それによってわかったことを次の著書にまとめたい、ついては私の協力を得たい、というのだった。

大塚将司氏 Ⓒ文藝春秋

 彼の構想を私流に要約すれば、それはバブル崩壊版の「細川日記」だった。

 あのとき大蔵省の高級官僚や銀行の頭取には巨額の不良債権が発生したことを早くから認識したものがいた。宮澤喜一首相は1992年、公的資金導入の必要性に早くから気づき、経団連や銀行に根回しに動いていたことが知られる。

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source : 文藝春秋 2026年7月号

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