町を駆け抜けた神出鬼没の黒い影。50万人都市が揺れた4日間
栃木県宇都宮市の中心部に「オリオン通り」と呼ばれる全長約300メートルのアーケード商店街がある。
戦後復興期に三つの町(一条町、江野町、曲師町)が共同で整備したことから、オリオン座の三ツ星にちなんで、その名がついた。飲食店やアパレルショップなど約100店舗が立ち並び、昼夜を問わず大勢の人が行き交う。
いわば宇都宮の「顔」である。
そこを1頭のクマが駆け抜けたのは、2026年6月7日未明のことだった。商店街に設置された防犯カメラがその姿をとらえている。
――若者らしき2人組が話しながら商店街出口へ向かう。出口から一歩足を踏み出したとき、その足元を掠めるように真っ黒な動物が駆け抜けた。それを見て一人はすぐに踵を返し、もう一人は一瞬、その場に立ち尽くした後、慌てて引き返す。
この映像は、7日午後から夕方にかけてテレビやネットなどで繰り返し流された。「宇都宮で最もクマから遠いはずの場所」にクマが出たという事実は、宇都宮市民に大きな衝撃を与えた。50万人都市を4日間にわたって揺るがすことになる「宇都宮クマ騒動」の幕開けである。

このクマが最初に人間社会に認知されたのは、商店街を駆け抜ける約20時間前の110番通報だった。
〈6月6日午前6時30分、長岡公園の山林で体長60から80センチのクマのような動物を目撃した〉
長岡公園はオリオン通りから北に約3キロに位置する。警察はすぐに関係機関と情報を共有。宇都宮市の鳥獣対策担当者が現場を調査したが、痕跡などは確認できなかった。
「最初に連絡を受けた時点では『イノシシかシカをクマと見間違えたんじゃないかな』と思ってました」
そう語るのは栃木県庁自然環境課野生生物・鳥獣対策班の丸山哲也班長だ。1991年に林業職で入庁した丸山は、そのキャリアの中で長年鳥獣対策に携わってきた経歴を持つ。
「おもにシカとイノシシによる農業被害への対策ですね。クマについては調査業務などで山間部に入ったときに、何度か遭遇したことはあります。すぐ脇のヤブにクマが潜んでいて、私が通り過ぎた後、慌てて背後を逃げていったこともありました」
全国の他の地域と同様、栃木県でも近年クマは増加傾向にある。ただその生息地は日光連山から那須連山にかけての山間部に集中しており、ごくまれに宇都宮市内で目撃されても、それは市北部の山際や里山周辺に限られていた。市中心部にほど近い長岡公園での目撃情報に丸山が半信半疑だったのも無理はない。
「これはマズいな」
だが最初の目撃情報から約12時間後の6日18時32分。長岡公園から南東に約250メートルの住宅地(富士見が丘一丁目)で犬の散歩を終えた女性が、自宅の玄関前で物音がするのに気付く。隣人かと思い目をやると、わずか10メートル先にクマがいたという(「下野新聞」2026年6月11日付)。
その3時間後には、さらに南へ約2キロ下った上大曽町にある中央消防署付近でも目撃された。消防署付近の防犯カメラには、はっきりとクマが映っており、ここに至って丸山も、クマが市中深くに入り込んだことを認めざるを得なかった。
「(生息地である北部の)山の方に帰ってくれればいいと思っていたんですが……。目撃地点を辿ると、市中心部へ向かって南に下っていたので、これはマズいな、と」(丸山)
丸山の懸念は当たる。日付が変わって7日1時14分には栃木県庁に隣接する県立図書館付近で目撃。
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