かつてのロシアとウクライナの物語
ジンタルスとは琥珀のこと。主人公が書いた作中作の人物に与えられた名前であり、かつて主人公が樹木のやにで遊んだ幼いころのことや、自分に目をかけてくれた教会の輔祭の記憶とも結びつく。
小説は19世紀の帝政ロシアと、13世紀、十字軍の時代の東ヨーロッパを行き来する。来し方を回想する主人公のミーシャは、農奴の身分に生まれたザポロージェ(ウクライナ中南部)・コサックの末裔で、領主の伯爵家に仕える。伯爵家の農奴画家のメーリニクに才能を見込まれ、ペテルブルクの美術アカデミーで絵画を学ぶことになる。
メーリニクとともにミーシャを導くステンカは、先代伯爵の血を受けたと噂されているが、正式な身分は与えられないままで、屋敷では「亡霊(プリーズラク)」と呼ばれている。屋敷から出ることのかなわないステンカが、身寄りのないミーシャに外国語の本を読むことを教え、ミーシャを支えることで、彼も自身の実体、彼の人生を取り戻していく。
ペテルブルクにたどりついたミーシャは、図書館に通いつめてさまざまな本を読んでいく。画才とともに文才も発揮するようになったミーシャの詩は編集者の目に留まって出版され、折々に書いていた小説も『秘密法廷』という煽情的なタイトルで出版される。曇りのない目で世界を見ているミーシャの小説は、意図せずに体制の禁忌に触れ、過酷な運命に彼を向かわせる。

ミーシャはもちろん創作上の人物だが、農奴出身の画家で詩人のタラス・シェフチェンコの作品から作家は着想を得たという。画家のブリュロフや詩人のジュコフスキーといった実在の人物も活躍する。
ミーシャの現実が、作中作のそこかしこに形を変えて見え隠れする。読んだ本とそこから生まれた小説や、現実と小説との関係は、作家自身のものでもあるだろう。
十字軍に家族を殺され、修道院に入れられたジンタルスは、彼を異教徒と呼んだキリスト教の教えを受ける。そこで貴族の三男マクシミリアンと知り合い、騎士修業に向かう彼と身分を取り替えて騎士となる。
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