久田将義「教養としての新宿・歌舞伎町 立ちんぼから半グレまで、裏社会の現在地」

鈴木 涼美 作家

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エンタメ 読書

街角のオモシロ事件簿ではない歌舞伎町の本

「教養」とは通常、学問や芸術によって養われる知性や心の豊かさ、あるいは自分の専門分野以外の幅広い知識のことを指すが、昨今の教養ブームも含めて人々がそれを求めるのは、難しい時代に荒々しい世界を泳いでいくための力が欲しいからだろう。その力とは自分の考えを形成するための材料、その材料と対峙するための知的体力にほかならない。その意味で本作はタイトルを裏切らない、「教養」の本だった。

久田将義『教養としての新宿・歌舞伎町 立ちんぼから半グレまで、裏社会の現在地』(朝日新書)957円(税込)

 近年「トー横」「立ちんぼ」「悪質ホスト」など何かしらのキーワードを引っ提げてネットやお茶の間を騒がせている歌舞伎町だが、人々が閲覧する多くの情報は圧倒的にミクロな事件簿である。街角の珍事や凄惨な事件、エンタメ化された闇は確かに人の興味を引く。ただこの本のなかでそういった事象は、歌舞伎町という小宇宙の一角で日々起こるものでしかない。それらのいくつかは時代や地域を象徴するものに違いはないが、著者はもっと俯瞰して街の現在置かれた状況や全体の流れを捉えようとする。広い視野を持つには高い場所からの視点が必要だ。歌舞伎町の場合、その高い所がヤクザということになる。「ヤクザの視点を通さずして『歌舞伎町の真実』は分からない」と著者は強調する。

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source : 文藝春秋 2026年8月号

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