「文藝春秋」の編集者が明かす、電子版限定の“ここだけの話”
2020年7月に月刊「文藝春秋」(Monthly Bungei Shunju、通称・本誌)編集部へ異動し、2026年まで在籍しました。想定外の長さでした。
私の編集者人生はカラーページでつくる女性誌一辺倒で、モノクロの活版ページがある雑誌は初めてでした。異動直後は企画立案や編集スピードの速さに混乱し、毎日が鼻血の出る思い。企画を振られた2日後に「あれ、もう出来た?」と問われたときはガクブルでした。また、これまで私は編集者としてライターさんへ執筆を依頼することがあっても、自分で書くことはほとんどありませんでした。本誌は記事1本につき8000字近くと長文です。机に這いつくばりながら書いた原稿を編集長へ送ると「これ、載せられません、から」と返信をもらったことがあります(私はこの返信メールを三行半と呼んでいます)。メールはまだ良いほうで、電話は最悪です。完徹して書き上げ、呑みに出かけると携帯が鳴るんです。そして「これ、商品にならないから」のひと言。お店に詫びてダッシュで帰宅し、涙目で書き直したこともありました。
そんな私がどうして生き残れたのかーー。不思議でなりません。ただ、辛いときはひたすら社内の資料室に籠っていました。ご存じの通り、編集作業にはマニュアルがありません。そこで救いを求めたのは昔の「文藝春秋」です。刊行されたからには、それが正解のはず。誌面には文豪や著名人たちの肉声が溢れ、銀座のママたちが政財界の大物を笑い飛ばす覆面座談会という驚く記事もありました。グラビアには土門拳ばりの写真が並び、圧巻の熱量。特に夢中になったのは昭和30年代のバックナンバーで、エディトリアル・デザイナーやイラストレーターという職業が確立されていなかったためか、編集者がキャプションや画像を切り貼りした跡や、味わいのある手描きの挿画が散見されました。※デザイン室の石崎健太郎さんによれば「当時はイラストレーターがいなかったので、日本画を専攻する学生などに描いてもらったのだろう」とのこと



その熱量は今の編集部も同じかもしれません。思い出されるのは、ある場所へ張り込むことになったときのこと。50代で初めての張り込みは緊張のあまり、眠れませんでした。そんな私を数名の若手が「私がやりましょうか」「立つならここですよ」と心配してくれました。校了直前に入稿し忘れて誌面を空けてしまったことも。「これではまだ本誌から出られませんね(笑)」とデスクがやりくりして埋めてくれました。思い出せば失敗ばかりで悔いが残りますが、でも、度量の深く熱い部署だったからこそ6年も在籍できたのだと思います。
今回の人事異動を経て、本誌編集部はすでに新たな空気をまとっているように見えます。寂しい気持ちになるかと思っていたけれど、それが全然。かつての本誌に似た熱気を感じられ、わくわくします。歓送迎会のときにもお伝えしましたが、懸命に編まれた記事は読者はもちろん、100年後も私のような出来損ないの部員を魅了させるに違いありません。
最後に業務連絡です。使った文房具や道具は、元の位置にきちんと戻してください。給湯室はきれいに使ってください。水場の使い方は品性が出ます。
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