
■連載「古風堂々」
第85回 恵まれた立場ならばこそ
第86回 リズムが乗り移る
第87回 みんな大好きスローガン
第88回 富士、いまだ遠く
第89回 戦略をなくした国
第90回 今回はこちら
「百歳で子供を作ることが僕の大目標だ」と十年ほど前に女房に宣言した。やさしい女房はよく理解してくれ、「どうぞ外で頑張ってね」と励ましてくれた。大目標のためには何といっても足腰と心肺機能を強く保つことだ。そこで私は毎日七キロ以上歩くことにしている。女房がデンと控える自宅は雰囲気が悪いので、毎日の朝食後に二キロ離れた仕事場まで歩く。昼食後には三キロほどの散歩をし、夕方の帰宅時にまた二キロという具合である。気を配るのは距離ばかりでない。歩幅七十センチの速歩を三百メートルほどすると、次の三百メートルは歩幅六十センチのゆったり歩き、と強弱をつける。
若い頃の私は歩くのが速く、デート時にはいつも女友達が横を小走りしていた。そうしなかったのは横着な女房だけで、「どうぞお先にどこへでも」とでも言いたげにマイペースで歩いたから、三十メートルほど離れるたびに私が待つ、というデートだった。それが大学を定年退職した頃から、それまで一度もなかったことだが若い女性に抜かれることがあるようになった。当然、私はこの屈辱を許さない。必ず抜き返す。先日は、吉祥寺のサンロードという三百メートルほどのアーケードで、三十歳ほどの通勤女性と、抜きつ抜かれつの死闘をくり広げた。最後の十メートルで私が前となり、「ついに勝った、強敵だった」と安堵していたら、何と最後の五メートルで走って私を抜いたのだ。「出し抜いたな」と怒り心頭の私はサンロードの先、駅への横断歩道を走って抜き返し勝利した。
健康のため信号待ち、エレベーターや電車の中などではかかと上げと爪先上げを交互に繰り返し、第二の心臓と言われるふくらはぎを鍛える。食事にも重大な注意を払う。料理好きの女房も協力してくれ、毎朝、オリーブオイルをかけた納豆にジャコをまぶしたものを出してくれ、メカブやモズクもつけてくれる。炭水化物は食物繊維の豊富な玄米入り御飯や、女房自らが焼く全粒粉入り天然酵母パンだ。仕事場で一人でとる昼食には、ネギ一本を刻んで入れたニシンそば、豆腐にキムチ、若鶏の胸肉などをよく食べる。食物に余り気を使っていると、それ自身がストレスになるし、人生が味気なくなる。そこで時には、世の中で最も美味しい料理と信じて疑わない餃子を食べようと、「餃子の王将」に行きニンニク激増し餃子を二人前食べる。そば屋で天ザル大盛りを食べたり、世界で最も美味しいスイーツ、豆大福をほおばったりもする。
完全無欠に見える私の食生活にも死角がある。食品の安全性だ。スーパーで食品を買う時は必ず「原材料名」に目を通す。中国産のものが入っていればすぐに棚に戻す。先日は、中国で白菜の日持ちをよくするためホルマリン溶液につけてから出荷していた、とのニュースがあった。中国産にはピーナッツをはじめ発ガン性の強いカビ毒「アフラトキシン」がしばしば検出されている。土壌の汚染によるものらしい。白菜やピーナッツは氷山の一角であろう。嘘つき中国では何でも起こるからだ。こちらは中国産の農水産物は一切買わないことで自衛するしかない。ただ日本の業者もずる賢くなっていて、乾そばの原材料名にしばしば、「そば粉(国内製造)」などと書いてある。中国産のそばの実を国内でそば粉にしたということだから買わない。食品添加物の安全性は私のような素人にはよく分からないが、「原材料名」という欄の斜線以降に、保存料、人工甘味料、発色剤などが記されているから、ここに多くが書いてある食品は避ける。ただ、十数年前に尊敬すべき農学者のF教授に添加物の安全性を質問したところ、こう答えられた。「気にする必要はありません。昔から食品保存料として使われている食塩は、一度に二百グラムも食べれば死んでしまうし、毎日十五グラムほど食べれば脳梗塞や心筋梗塞の危険にさらされます。では塩は毒かと言うと、人体は一日に二グラムほどとる必要がある。安全量だけが問題ということです。日本の食品の添加物はすべて安全性を確かめた範囲内ですよ」
目下の心配は遺伝子組換え作物だ。日本やEUではほとんど栽培されていないが、アメリカではトウモロコシや大豆の九割以上が遺伝子組換えだ。特に我々が毎日食べる味噌、豆腐、納豆、油揚げの原料となる大豆が問題だ。国内自給率はたったの六%である。傲慢強欲アメリカの、「お前達のクルマを買ってやるから俺達の大豆を買え」という脅迫に、腰抜け日本が「ふざけるな、クルマのために農業を犠牲にできるか!」と怒鳴り返さず、屈従してきた結果だ。九十四%はアメリカ、ブラジル、カナダなど遺伝子組換え大国からの輸入である。醤油など大豆の加工品には遺伝子組換えと明記しなくても良いと消費者庁が決めたので、遺伝子組換え作物を避けている私も、かなりの量を口にしているはずだ。
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