ティールが仕掛けた「反キリスト」が、テック業界を飲み込んだ
今年5月25日の昼、バチカンの会議場シノドスホールは、教皇庁の高官、各国の外交官、学者や記者で埋まっていました。ローマ教皇レオ14世が、就任後最初の回勅『マニフィカ・フマニタス』を発表するからです。回勅とは、教皇が全世界の信者に向けて出す公式の書簡のこと。通常は枢機卿に発表を任せるので、教皇自身が登壇するのは異例でした。
回勅のテーマは、「人工知能の時代における人間の人格の保護」でした。壇上には教皇のとなりに3人の枢機卿と2人の神学者が並び、そこにもう1人、無神論者のカナダ人がいました。AIの「Claude」を開発する企業、Anthropicの共同創業者、クリス・オラーです。
枢機卿と神学者に続いて、オラーがスピーチをしました。自分たちのような最先端のAI研究所は、商業競争や地政学の圧力の中で動いている。だから、道を誤ったときに忠告してくれる、事情に通じた批判者が必要だ──。
教皇は、数席離れたオラーに向かって、招きに応じてくれたことへの特別の感謝を述べました。「違いがあっても互いに耳を傾け合えることは、なんと大きな希望のしるしでしょう」。その上で「人工知能は“武装解除”されなければならない」と、核軍縮を念頭に置いた表現で語りました。そして、2人は壇上で握手を交わします。

245段落に及ぶ回勅で、教皇はカトリック教会の考えを詳しく述べています。
AIは経験も身体も良心も持たず、人間に取って代わってはならない。労働者に機械の速度を強いる働き方や、顔の見えない相手への攻撃を容易にすることも許しがたい。武装解除とは技術を拒むことではなく、技術が人間を支配するのを防ぐことであり、ただ規制するだけでは足りず、誰にでも開かれたものにしなければならない、と。
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