「まぶしく弾けるソーダの泡」アンナ・カリーナ

スターは楽し 第165回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画
使用_アンナ・カリーナjpp10012509_トリミング済み
 
アンナ・カリーナ(写真・ROGER_VIOLLET)

 ダークヘア、ややぱらついた前髪、濃いアイライン、ニーソックス、格子柄のベレー。そして、牝鹿のような眼。

 アンナ・カリーナの顔や姿は、すぐに浮かび上がる。記憶を遡るまでもない。

 1960年代、カリーナの名を聞くだけで浮き足立ったガキは、私も含めてそこらじゅうに転がっていた。ゴダールとカリーナ。そう、ジャン=リュック・ゴダールとアンナ・カリーナは、当時最強で、最もクールなカップルだった。

 ふたりの名を見つけると、友人たちはそろって映画館に駆けつけ、雨のなかでも列を作って開場を待った。大げさに聞こえるだろうが、ほぼ事実だ。

『気狂いピエロ』(1965)が日本で公開されてブームを巻き起こしたのは67年の夏だが、私が最初にどきりとしたのは、『女と男のいる舗道』(1962)を神戸の名画座で見たときだった。

 高校生だったので、よくわからない細部もあった。ただ、カリーナの演じるナナという女が、下り坂をずるずると降りて娼婦になってしまう気だるさはよくわかった。煙草を吸っていた男とキスをしたナナが、自分の口から煙を吐き出すシーンも、当時は話題になった。たわいない場面だが、あっと思った。

 いま見直しても、この映画の引力は強い。ナナは歩く。ナナは煙草を吸う。ナナは身体を売る。ナナは客とのキスを拒む。感情は表に出さない。艶のある髪と陶器のような肌が眼に残る。気がつくと、観客はナナの姿を探し求めている。画面のどこかに、彼女がいるはずだ。

 この映画が公開されたころ、カリーナとゴダールはすでに結婚していた。ふたりが出会ったとき、ゴダールは〈カイエ・デュ・シネマ〉の批評家で、カリーナは駆け出しのモデルだった。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2020年3月号

genre : エンタメ 映画