著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、鎌田浩毅さん(京都大学教授)です。
道路会社の技術屋をしていた父は、あまり家に帰らなかった。機械部という部署に属し、会社の機械が故障しかけるとすぐに飛んでいった。家族の体調より機械の機嫌をずっと気に掛けていた。
帰宅すると自動制御という機械工学の本を読み、何やら紙に図面を描きながら細かく数字を書き込んでいた。パソコンはおろか電卓もない時代で、計算尺というプラスチック製の簡易器具を駆使して長大な計算をしていた。
機械遊びに飽きると積分方程式とか連続群論とかいう題名の数学書を腹ばいになって読んでいた。覗き込むと日本語より数字と記号が多く記されており、これでも本なのかと子ども心にあきれた。
そんな父とまともに話したのは、大学の専門を決めるときだった。教養課程で取得した点数にしたがって3年次の進学先が決まる、という乱暴な制度があった(今でもある)。サークルを4つも掛け持ちし、留年までして人より1年余分に遊び呆けていた私には、後の祭りだった。
父とは正反対に数学で零点を取り、消去法につぐ消去法で辛うじて地学科に決まった。何が面白いのか全く知らない学科だった。そんな私に父は言った。「学校で落ちこぼれた生徒は世間に出たら10倍楽しい」。
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source : 文藝春秋 2020年4月号