2度目の東京オリンピック

巻頭随筆

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 今年は東京で56年ぶりのオリンピックが行われるということであったが、新型コロナウイルス感染拡大の終息が見込めないまま。オリンピックの延期が発表され、残念な思いと同時に56年前の東京オリンピックの思い出がよみがえった。

 東京でオリンピックが開催されることが決まり、突然のように東京中で煮えたぎるような工事が始まり、一気に首都高速や新幹線が出来た。土地の買収をする時間が無いために、首都高速は殆どが川の上に作られたのだが、日本橋の上に高速道路を作っているのを見て中学生だった私も、さすがにこれは酷いと思ったものだ。

 1964年に、私は浅草橋の鳥越神社の近くにある、東京都立忍岡高校に入学したのだが、夏休み明けのある日全校生徒に知らせがあった。聞けば、東京オリンピックの予行演習が有るとのことで、正確に開会式にかかる時間を計るために、本番と全く同じ人数、全く同じスケジュールで開会式の予行演習をやるという。へーっと、他人事のように聞いていたら、何と都立高校の生徒を駆り出して、各国の選手団にするというのだ。

 生徒はどの国の選手団になるかは全く分からないまま、ギリシャの次からはABCの国名順に、既に確定している選手団の人数を機械的に振り分けていたようだった。受験を控えた3年生は別にして、1年生を中心に選ばれ、2年生も入っていた。

 数日後、発表があり、私は何と偶然にも355人しかいない日本選手団団員となった、ちょっと興奮したものだ。実際の予行演習は、10月3日で、良い天気だった。千駄ヶ谷の国立競技場には、制服姿の高校生が集められた。東京オリンピックの参加国は93か国、5152人の選手が参加したのだから、それだけの高校生が集められたことになる。当時男子は黒の詰襟の学生服で、私の高校の女子はブレザー姿。競技場の外で各国選手団に分けられて、プラカードを持った先導員に従って緊張しながらスタジアムに入った瞬間、本当に鼓動が早くなった。それでもキチンと列を乱さないように綺麗に行進しながら客席を見ると、観客席も一杯だった、何処かで募集したのだろうか。メインスタンドの前を通るときは、もう本物のオリンピック選手になったような気になっていたのだから、高校生は暢気なものだ。

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source : 文藝春秋 2020年5月号

genre : エンタメ 社会 スポーツ