「これさえ食べれば大丈夫」という食べ物はない。自分に合った食べ物を食べることが大切。全身の免疫機能を司る腸内フローラを活性化させ、コロナに負けない身体を作ろう。(構成・青木陽子、山祥ショウコ)
福田氏
免疫細胞の70%が腸にある
新型コロナウイルスの流行以来、首都圏のスーパーでは納豆の品切れが続いているという。
――納豆菌は最強。昔から酒蔵では『納豆を持ち込むと、麹菌が全滅する』と言われているくらい。だから納豆菌をたくさん摂取すれば、ウイルスに勝てる!
こうした説がSNSを中心に流布した結果、品切れにつながったようだ。納豆菌がウイルスを直接殺すという科学的根拠はないし、呼吸器粘膜からが大半と推定されている新型コロナウイルスの感染経路に食事から摂る納豆菌が関与するとは考えにくい。しかし、納豆を食べるのは新型コロナ対策として無益かというと必ずしもそうではないようだ。
スーパーの棚から消えた納豆
「この説を聞いて調べてみたんですが、納豆を食べると免疫力がアップ“する人もいる”とは思います」と、言うのは、慶應義塾大学特任教授で、腸内環境研究のリーディングカンパニーであるメタジェン社CEOの福田真嗣氏。慌てるなかれ、納豆を買いに走る必要はない。
「それは『納豆菌が新型コロナウイルスより強い』からではなく、人によっては納豆という発酵食品を摂取することで免疫機能に良い効果をもたらすからです。ただ、そういった食べ物は他にもたくさんあります。納豆に限らず『これさえ食べれば誰でも免疫力が上がる』という食べ物はありません。自分にあった食べ物を食べることで腸内の細菌を活性化し、免疫力をアップすることができるというのが重要です。腸には免疫機能にたずさわる細胞の約70%がいると言われており、免疫機能において重要な役割を担っています」
腸は食べ物から栄養や水分などを吸収し、残りカスを便として排出しているが、腸の中に約40兆個存在し、総量で最大1.5キロにもなるというのが腸内細菌の集団である腸内フローラ。福田氏は腸内フローラや彼らが産生した代謝物質の情報を分析し、統合的に評価することで腸内環境研究を推進する第一人者だ。
「この腸内フローラが、体内の免疫細胞たちの『教育』をしてくれることがわかっています。人間はお母さんのお腹の中では無菌状態なので、生まれたばかりの時は免疫機能が未発達で、感染症リスクがとても高い。でも生物の仕組みはよく出来ていて、生まれてすぐに飲む母乳に免疫物質であるIgA抗体(免疫グロブリンA)が含まれています。赤ちゃんは病原菌やウイルスを排除するための武器を母親から受け取るのです。その後、口から入った細菌の一部が腸内に定着し、母乳や離乳食、さらには飲んだ薬などの影響を受けながら、その人固有の腸内フローラが形成されていきます」
食べ物でIgAを増やす
細菌やウイルスなどに対して活躍する免疫物質にはIgAの他にもいくつかの種類がある。IgAは腸内や気道、目などの粘膜や唾液などの分泌物に含まれ、外から体に入ってこようとする異物に対し、最初に反応する第1の免疫物質だ。
「IgAは『抗原特異性が低い』と言い、反応できる成分が他の免疫物質より多いのが特徴です。ウイルスは必ず粘膜から感染しますが、免疫細胞は体中の粘膜を移動できる。腸内フローラにより免疫細胞がうまく教育されていれば、のどや気管、目、鼻など全身の粘膜で免疫機能が発揮されるのです。IgAの分泌量が多ければ感染症リスクを抑えられる可能性は高まりますが、必ずしも新型コロナをブロックできるというわけではありません。でも分泌量が少なければウイルスに抵抗できませんから、増やしたほうがいいですよね」
納豆で免疫力がアップするという話は、ある実験で納豆を食べた人はIgA分泌量が増えたという結果から出たようだ。しかしこれは納豆だけで起こる現象ではないという。
「たとえばキノコのエリンギを食べた人の中にもIgA分泌量が増加した人がいるという研究結果も報告されています。そもそもキノコは“菌”類なので、異物として免疫系に働きかけることが分かっていますし、食物繊維も豊富なので、腸内フローラにも働きかけると考えられます。腸内フローラは食物繊維やオリゴ糖などをエサとして食べているので、こういったものが豊富な食物を食べると、腸内フローラの働きが活発になり、その刺激によりIgA分泌量が多くなると考えられます」
つまり、腸内フローラを生き生きさせる食品(腸内フローラのエサ)を摂る=IgAが増える、という仕組み。これで自分の免疫系による最初のバリアを鍛えることができるというわけだ。
食物繊維たっぷりのエリンギ
では納豆やエリンギをたくさん食べれば新型コロナ対策になるのかというと、必ずしもそうならないのが、腸活(腸内フローラを活性化させる食事を摂取すること)の面白いところである。
「腸内フローラの構成は人によって異なります。その人が何を食べてきたか、どんな薬を摂取してきたか、どこでどのように生活をしてきたかという環境要因で変わるからです。遺伝は環境要因ほどの影響はなく、双子でも腸内フローラは異なります。納豆を食べることでIgAが増える人がいる一方で、増えない人もいるのです。また、腸内フローラの多様性が高いと免疫力がアップすることも報告されていて、そのためには、彼らに色々なエサを届けるのが重要です。たとえば同じ食物繊維でも水溶性と不溶性、さらには水溶性の中でも様々な種類の食物繊維を意識して摂取するのが効果的でしょう」
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source : 文藝春秋 2020年6月号