「2分間ストレッチ講座」筋肉は裏切らない

コロナに負けない心と身体を作る

谷本 道哉 近畿大学准教授
ライフ ヘルス
2週間体を動かさないだけで、人間の体力は衰える。必要なのは、適度な運動! 肩凝り、腰痛に効く「超ラジオ体操」の著者が、超カンタンにできる運動不足解消ストレッチを教えます。
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谷本氏

まずは正しい姿勢から

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて政府が発表した「緊急事態宣言」からひと月以上が経ちました。今も多くの人が外出の自粛を余儀なくされ、終日をほぼ自宅で過ごしているのではないでしょうか。

 もともと運動習慣のない人は、日常生活が日々の活動量の主な部分を占めているので、一連の外出自粛で、からだ、特に筋肉や関節などの運動器の機能が低下している恐れがあります。まず痩せていくのが、前腿の大腿四頭筋やお尻の大臀筋などの「抗重力筋」と呼ばれる筋肉。特に高齢者は、自粛生活を続けて筋力が弱まると、歩くのも辛く感じるようになるでしょう。また、心肺機能などの持久的体力は筋肉よりも衰えが早く、2週間体を動かさないだけで、如実に変化が現れます。ちょっと歩いただけで息が上がるなどの体の変化を感じている人もいるかもしれません。とはいえ、いきなり運動しましょうと言われてもハードルが高いもの。普段運動していない人がいきなり負荷の高い運動をすると体を痛める可能性もあります。

 まずは姿勢から見直してみましょう。いまこの原稿を読んでいるあなたの姿勢は「正しい姿勢」ですか。

 家でじっとしていると、「前かがみ」の姿勢が多くなりがちです。パソコンやスマートフォンを見ているとき、背中が丸まっていませんか。

 また、家事には前かがみの姿勢を前提とした動きが多く、洗濯、掃除、料理や片付けなど、意識しなければ胸を張った姿勢でできる作業は一つもありません。

 背骨が丸まった姿勢が続くと、肩や腰に負担がかかり、肩こり、腰痛などの不調に繋がります。座った姿勢が長く続けば、股関節の動きも悪くなり、脚を大きく動かせなくなります。「背骨・肩甲骨・股関節」は手や脚の動きの起点となる「体幹」です。つまり、体を動かさないことで生じる不調は、「背骨・肩甲骨・股関節」がしなやかに動かなくなっていることから起こります。

「ラジオ体操」を思い出してみてください。「ラジオ体操第1」には、「背骨・肩甲骨・股関節」をしっかり大きく動かす動きがふんだんに盛り込まれています。

 今回は、「ラジオ体操」に登場する運動をアレンジし、より効果的に「背骨・肩甲骨・股関節」を動かしていく4つのストレッチをご紹介します。1つのストレッチにつき、約30秒かけて行います。ゆっくり大きく丁寧に行うので、からだを痛めにくいのも特徴です。全てやっても1日たった2分しかかかりません。「体幹」がしなやかに動くようになれば、自宅にいても、テキパキと動けるようになり、気持ちも晴れやかになって前向きな気分になれるはず。まずは外出自粛前の活動量に戻すことが大切です。

筋力は病気のリスクを下げる

 いま運動不足で筋力を減らしてしまうと、中高年であっても加齢によって筋力が落ちていくときに貯金がないので、サルコペニア(加齢に伴う筋肉の減少)やフレイル(加齢に伴う虚弱状態)のリスクが高まります。実際、何もしなければ40代から筋肉量は低下し始め、50代から大きく落ち始めます。

「筋力の維持」は寿命やさまざまな病気の発症リスクに関係しています。筋力の強い人とそうでない人の死亡率を4年にわたって追いかけた疫学研究によると、筋力の低い人のほうが心不全の罹患率が1.6倍、脳梗塞が2.8倍になっていました。病気にかかってしまったときに死亡する率の差も大きく、心不全、脳梗塞、がんでいずれも約2倍になります。

 しかし、筋肉は何歳からでも鍛えられ、強くなります。何より、快適に動く体は気持ちが良い。現在の自粛生活をどう過ごすかは、健康長寿を考える上でも大きな分岐点になるでしょう。

 強張ったからだでは、運動どころか、からだを快適に動かすことができません。まずはこの4つのストレッチでしなやかな体を目指してください。

 さあ、一緒に全身を動かしましょう。筋肉は裏切りません!

肩や背中の凝りがラクに

 まずは、「肩周り」の運動から始めましょう。背骨と肩甲骨が大きく動き、肩や背中の凝りがラクになるストレッチです。

 椅子に座ったままでも構いませんが、立てる人は両足を閉じて、両手を下した状態で立ってください。

 左足を肩幅に広げ、両手の先を肩の上に置きます。これが基本姿勢です。ラジオ体操第1で、両肩にあてた手を真上に挙げる運動がありますが、この両手を挙げる直前にする「肩に手をあてたポーズ」です。ここから、両肘を可能な限り後方に引きます。こうすることで、左右の肩甲骨が中央にある背骨に向かってギューッと寄っていくのがわかると思います。肩甲骨が寄ると背中がよく反ります。

 肩甲骨同士が寄って背中が反る感覚を十分に味わったら、今度は反対に両肘を目いっぱい前方に突き出して、胸の前でくっ付けましょう。これで肩甲骨が大きく開き、背骨が前側に大きく丸められます。開いて戻す動作をそれぞれ2秒ほどかけてゆっくり、丁寧に行うことで、肩周りと背中周りがラクになるはずです。

 次に、胸の前で手を組みます。手のひらを外側に返しながら両腕をグーンと頭上に挙げて「伸び」をします。猫が床に這ってウーンっと伸びをするイメージです。伸びきったな、と思ったところからもう一段階上を目指して伸びましょう。

 この時、背伸びはしなくて結構です。バランスがとりにくくなるので、かかとは床に付けたまま。顔が上を向くように首を反らします。

 こうすることで、肩甲骨が大きく上に動き、背中を大きく反らすことができます。この肩甲骨の動きを「上方回旋」と呼びますが、肩甲骨と上腕骨のつなぎ目の肩甲上腕関節が大きく動くので、肩が軽くなり、五十肩などの予防にもつながります。

 両腕をグーンと伸ばしきったところでゆっくり「1、2」と数えましょう。2まで数えたら、足を閉じながら両手を離してゆっくり下ろします。この時もただ下ろすのではなく、両手、両肘がなるべく体の後ろ側を通るようにするのがコツです。外から大きく回して下ろす感じです。そうすることにより肩甲骨が寄り、胸が開きます。終わったら、今度は右足を横に踏み出して、もう1回同じ動作を繰り返しましょう。

 肩甲骨を動かすことで背骨周りも一緒に大きく動かすことができ、快適に動けるからだに近づけます。実際やってみると、とても気持ちいいですよ。

2分間ストレッチ講座-01
 

 このストレッチで、肩甲骨と背骨周りを大きく動かしました。次は「前後屈運動」で股関節も含めて全身を大きく動かしていきましょう。足は肩幅に開きます。ここからの動きは、首→背骨→股関節の「3段階で動かす」ことを意識してください。

 まず第1段階。首を前に倒します。次に、第2段階として背中を丸めて体を前に倒すのですが、この時に手のひらが自分のほうに向くようにして手を前で組み、組んだ手が遠くに引っ張られるような意識で上半身を倒していくと、肩が前に出て肩甲骨が広がり、背骨が大きく前に曲がります。背骨と周囲のそれぞれのブロックが、確実に動いていることを実感することが大切です。

 十分に背中の丸まりを感じたら、第3段階として、股関節も使って両手の甲が床に付くように前屈をします。この時、無理をして膝を伸ばすことはありません。少しくらい曲がっても、背中と股関節が大きく動くことを優先して考えましょう。

 ゆっくり元の姿勢に戻ったら、今度は後屈です。まず、第1段階で首を反らせて上を向きます。

 次に第2段階。腰に手を当てます。この時、腰の横ではなく、腰の後ろに手を当てます。こうすることで両肘が後方に大きく下がって、左右の肩甲骨を中央に向かって寄せることができるからです。肩甲骨が寄れば背中が大きく反ります。なお、親指を前にして手を返すのではなく、親指は背中側に当てましょう。手が返ると肘が開いてしまいます。

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source : 文藝春秋 2020年6月号

genre : ライフ ヘルス