小池都知事との攻防、GoToキャンペーン批判、安倍総理との関係……コロナ対応では「菅外し」も囁かれた。安倍政権の屋台骨を支え続けてきた官房長官・菅義偉は、この間、何をしていたのか──あらゆる疑問をぶつけた。
観光は「地方創生の切り札」
7月22日から、旅行代金を最大で35%補助する「Go Toトラベル」キャンペーンが始まりました。正直申し上げて、批判は多いです。おそらく皆さん、まだ新型コロナウイルスへの恐怖感がすごく強いのでしょう。無理もありません。ただ、専門家の先生方も仰っていることですが、「三密」を避けるなど対策をきっちり取っていれば、感染のリスクは非常に低いんです。
もう一つ、なぜ感染者数が再び増えているにもかかわらず、このタイミングでGo Toキャンペーンをやるのか。その背景も理解されていないように思います。
菅氏
大前提として、経済で苦しむ人を支援するのも、政府の大事な役割です。コロナの感染拡大を防止すると同時に、社会経済活動を段階的に引き上げていかなくてはならない。中でも、インバウンドも含めた観光を、安倍政権では「地方創生の切り札」と位置づけてきました。ホテルや旅館に加え、交通機関や飲食店なども含め、観光業には約900万人もの方が携わっています。彼らこそがこれまで地域に密着し、地域の経済を活性化させてきました。ところが、今はどうか。飛行機や新幹線の利用者は前年比で3割程度、地方の宿泊施設の稼働率に至っては1割程度に留まっている。観光業に携わる多くの方が明日も見えない厳しい生活を強いられているのです。
一方で、感染者数が増えているとはいえ、専門家の評価でも、現時点で重症者は少なく、医療提供体制は直ちに逼迫する状況にはないとされています。(ポケットから取り出して)いつも持ち歩いている資料なのですが、重症者数の推移を示した表です。最も多かった日(7月27日現在)は4月30日。全国で328人、東京で105人でした。緊急事態宣言を解除した5月25日は全国で155人、東京で39人。7月26日は全国で66人、東京で18人。格段に減っていることが分かると思います。重症者向けベッドの使用率も大半の都道府県で1割以下です。もちろん、医療現場で働く皆さんの奮闘には、本当に頭が下がる思いでいっぱいです。ただ、こうした客観的な数字を見る限り、緊急事態宣言を発出した時のような危機的状況にはないのです。
しかし、Go Toキャンペーンを進めていく過程では看過できない事態が生じました。北海道での講演(7月11日)で、私が「圧倒的に東京問題」と発言したことが大きく報じられましたが、他道府県と比べ、東京の新規感染者数が突出して増えてきたのです。7月2日に100人を超え、7月9日には200人を超えてきました。
小池知事がGo Toに慎重だったのは……
ところが理解に苦しむのは、都がこの間、軽症者や無症状者が療養するホテルの大半を、契約期限切れに伴って解約してしまったことです。6月30日時点では受入可能室数は2865室でしたが、7月7日時点で1307室、7月16日時点では371室にまで減っていました。「費用が無駄」との指摘もあったようですが、財源を負担するのは都ではなく、国です。
「医療提供体制は逼迫していない」と申し上げましたけれど、それは適切な対応を取っていればの話。ホテルで療養すべき軽症の方が街中で出歩いたりすれば、感染は想定以上に拡大し、医療崩壊を招きかねない。東京都では今になってホテルの確保を急いでいるようです。
こうした状況で予定通り、Go Toをスタートさせて良いのか。私自身は、東京の数字が突出していましたから、経済への負の影響を踏まえても、東京だけは対象から外すべきだと考えました。中には首都圏の1都3県を対象から外すべきという意見もありましたが、東京都と比べれば感染者数が全然違う。神奈川県の黒岩祐治知事も千葉県の森田健作知事も「国の観光事業に期待する」と発信されていましたね。そうした地元の声は大事にすべきだと思いました。でも、小池知事はGo Toに関しては慎重なスタンスでした。もし東京で何か起きてしまうと自分の責任問題になると思われたのかもしれません。
森田氏
それで7月16日夕方、政府の方針は、東京発着だけ対象から外すということになりました。ただ、コロナに関する政策判断は、医療や経済の専門家の皆さんが集まる分科会に諮った上で、最終的に決めていきます。この分科会は、確か2、3時間ほどだったでしょうか、ものすごく長い時間がかかるんです。私も、これはGo Toキャンペーンそのものがダメになるのかな、と不安を覚えたくらいでしたが、議論の結果、東京発着だけを対象から外すという方向で決着しました。
都と23区の連携不足が問題だ
実は、こうした「東京問題」は今に始まった話ではありません。私はコロナの感染拡大が起きて以降、ずっと、あまりにも巨大な都市である東京、都と23の特別区の関係、まさに「東京問題」を指摘してきました。2月、3月の段階からどれだけ厚労省から要請しても、都のPCR検査数が出てこなかった。ですから陽性率の公表もしていませんでした。
なぜこんなことになるのか。厚労省に調べさせたところ、案の定、都庁と23区の保健所の連携がうまくいっていなかった。というのは、私はかつて政令市(横浜市)の市議会議員をやっていたので、ピンと来たんですね。政令市や23区の保健所はある意味、都道府県から独立した存在です。だから、23区の保健所も都庁に報告を上げないし、都庁もそれを放置する。小池知事も当初、「23区の保健所対応は国の問題でしょう」と公の場で言っていたほどです。しかし、PCR検査やクラスター対策などの感染症対策は保健所が担いますが、周知の通り、知事には特措法に基づく権限や医療提供体制の確保に関する権限がある。この権限をきちんと生かせば、情報を入手することもできるはずです。
小池氏は「国の問題」と言うが……
都と23区の連携不足がこのまま続けば、更なる感染拡大を招きかねない――そう危惧した私は、厚労省の次官に対応を指示し、4月10日に厚労省と都と23区の保健所長が集まる会議の場を設けました。そこで決めたのが、都から各保健所にリエゾン(連絡役)の職員を2人派遣すること。都と保健所が情報を共有するシステムが構築され、それ以降、ようやく正確な数字が都から国にも報告されてくるようになったのです。
ただ、まだ課題もあります。いわゆる「夜の街」を中心に感染が拡大している新宿区の保健所に、厚労省から職員を送るのですが、あまり円滑に受け入れてもらえないんですね。日頃から現場でコミュニケーションを取れる体制作りの必要性を感じました。しかし当然ですが、ここは国民の命を守るためにも、一体となって対応に当たらなければと思います。
政府では西村康稔大臣が都と連携を取っています。ただ、こうして「東京問題」が世の中で話題になったことで、軽症者用のホテルが確保されていないといった大事な問題に焦点が当たったのも事実。その意味では、私があえて「東京問題」と発信したことにも効果があったのではないか、と思っています。
大阪府と北海道の対応はどうだったか
その一方で大阪では、吉村洋文知事のリーダーシップが目立っていますが、それだけでなく、松井一郎市長が後ろでしっかり支えていることが非常に大きい。大阪市の保健所が府にも協力する。だから数字もきちんと出てくる。松井さんは知事、吉村さんは市長の経験があるから、互いに問題の全体像も理解しているんです。
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source : 文藝春秋 2020年9月号