昭和天皇と青年将校たちへの新たな視点
今回、ノンフィクション作家の奥野修司氏によって発見された皇宮警察編『二・二六事件記録』(以下、『皇警記録』)から、改めて「二・二六事件」を読み解いてほしいという編集部からの依頼を受け、私は自宅の本棚を懐かしさとともに眺めました。本棚には二・二六事件にかんする書籍が50冊以上は並べられています。この事件は、小説や映画の題材にもなり、書かれた学術論文、研究書は字義どおり汗牛充棟。なかでも決定的な大きな流れをつくったのは、私も編集者としてかかわった松本清張さんの『昭和史発掘』でしょう。
存命だった当事者にインタビュー
『昭和史発掘』は、1964年から71年まで『週刊文春』で連載されていたノンフィクション作品です。大正末期から昭和初期にかけての出来事が清張さんと編集部(担当は藤井康栄さん、現・松本清張記念館名誉館長)の独自取材に基づいて描かれています。とくに『二・二六事件』(文藝春秋全3巻 以下、『昭和史発掘』)は傑作で、事件の全容を明らかにしました。まだ存命であった事件当事者たちへの徹底的なインタビューもおこなわれ、その数は反乱軍の青年将校や参加した下士官兵をあわせて、およそ150人にものぼりました。
二・二六事件とは、ご存知のように1936年(昭和11年)2月26日に起こった陸軍部隊による軍事クーデタです。
彼らが何でこの挙に出たのか。それには「蹶起趣意書」の冒頭を見るのが一番です。
「謹んで惟(おもんみ)るに我神洲たる所以は、万世一神たる天皇陛下御統帥の下に、挙国一体生々化育を遂げ、終に八絋一宇を完ふするの国体に存す。此の国体の尊厳秀絶は天祖肇国(ちょうこく)神武建国より明治維新を経て益々体制を整へ、今や方(まさ)に万方に向つて開顕進展を遂ぐべきの秋(とき)なり」
いやはや、これでは何を言っているのか分からないでしょう。そこで、簡単に言わんとしているところを説明しますと、「わが国が世界に冠たるところは天皇が統治する尊厳秀絶な国体にある。ところがその国体は破壊に瀕し、国民は非常に苦しい生活をしている。これは元老、重臣、軍閥、財閥、官僚、政治家が悪いのである。彼らが政治をほしいままにして、聖明を蔽い隠しているからだ。いま、これら君側の奸どもを滅ぼして、維新を断行し、国体をあるべき姿に戻して国民を救わんとする」ということなのです。つまり一君万民、君民一体の真の国のあり方を取り戻そうというわけなのです。
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source : 文藝春秋 2019年3月号