日本を動かすエリートたちの街、東京・霞が関。日々、官公庁を取材する記者たちが官僚の人事情報をどこよりも早くお届けする。
★最強副長官の後任は?
学術会議問題の黒幕と目される杉田和博官房副長官(昭和41年、警察庁入庁)の交代観測が再浮上している。
後任の大本命は元総務事務次官の岡崎浩巳氏(51年、旧自治省入省)。菅義偉首相が政治の師と仰ぐ梶山静六氏が自治相だった時に秘書官として仕えた。秋田県に出向したこともあり、首相とは30年の付き合いだ。
同期では大石利雄元総務次官(51年、旧自治省)が次官レースで先行していたが、「大石の前に、岡崎に次官をやらせる」とひっくり返したのは、官房長官だった菅氏。
官僚機構を統率する官房副長官は霞が関の「護民官」とも呼ばれる。「各省庁の意見に耳を傾ける岡崎氏は副長官にふさわしい」(閣僚経験者)と推す意見も少なくない。
官房副長官は経済官庁ではなく、旧内務省系から選ぶのが暗黙のルール。「財務省の権力が肥大しないようにする知恵」という。やはり菅首相は副大臣、大臣を務めた総務省が「天領」とされ、旧自治省との人脈が深い。大物次官とされた佐藤文俊氏(54年、旧自治省)も候補の一人だが、「行政手法がやや保守的。首相と呼吸が合うだろうか」(元総務省局長)と心配する声もある。
旧自治省出身では、元内閣府事務次官の河内隆氏(57年)も候補の一人だ。官邸を裏方として支える内閣総務官を経験し、「やっかいな政治案件も苦にしない」(内閣府幹部)とされる。同じように内閣総務官を経験し皇位継承の儀典を取り仕切った山崎重孝内閣府次官(58年)や、黒田武一郎総務次官(57年)も首相に近いことで知られる。
厚労省では鈴木俊彦前事務次官(58年)が首相の信頼を勝ち得ている。しかし「各省庁の次官と年次が近いと、押さえが利かない」との見方もあり、ハードルが高そうだ。
★「忖度」は回避できるか
総務省の黒田次官が首相執務室を訪問する回数が増えている。高原剛自治行政局長(59年、旧自治省)や稲岡伸哉自治税務局長(62年)らを伴うことが多い。局長が説明する間、黒田次官は見守るだけだという。万一の不手際で首相の逆鱗に触れた際、その局長を守るため、菅首相と関係良好な黒田次官が「アテンド」をしているとの解説が省内ではなされている。
年明け以降、その黒田次官が頭を悩ませることになるのは、菅首相が総務大臣時代に仕えた3人の秘書官(いずれも平成元年)らの処遇だ。
松本敦司氏(旧総務庁)は夏の異動で菅首相の足元、内閣人事局の審議官に就いた。大臣官房秘書課長、行政管理局審議官とエリートコースを歩んでおり、早ければ来年にも本省に戻り局長級にあがる。
旧自治省系の森源二選挙部長はハーバード大学ケネディ・スクール(行政大学院)の修士号を持つ、物静かな秀才タイプ。行政課長、自治行政局審議官、選挙部長と順調にキャリアを積み上げているのは「菅さんの御威光があるから」と後輩らは口さがない。
旧郵政省系の新井孝雄氏は大臣官房会計課長、中部管区行政評価局長を経て、この夏、まち・ひと・しごと創生本部事務局次長(内閣審議官)に。旧郵政省系は大臣秘書官に同期エースを送り込むのが慣例だが、新井氏は主要ポストを歩んでいない。
大臣秘書官だった3人は来年の夏、局長級にあがる「適齢期」を迎える。能力以上のポストを与えれば業務に支障を来し、組織に歪みが出かねない。かといって忖度なしの人事を提案すれば首相からの叱責が待っているかも知れぬ。また武田良太総務大臣には、防災担当大臣就任直後の去年9月、担当秘書官を飛ばした“前歴”がある。黒田次官ら人事権者の悩みは深い。
★首相ブレーンのアキレス腱
就任直後から菅氏の会食相手が注目されたが、それは菅氏に影響力を持つ人物が誰なのか、判然としなかったからだ。そうした中、政府は6人の内閣官房参与を任命した。立命館大学客員教授の宮家邦彦氏(外交)、嘉悦大学教授の髙橋洋一氏(経済・財政政策)、大和総研チーフエコノミストの熊谷亮丸氏(経済・金融)、慶応大学教授の村井純氏(デジタル政策)などだ。
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source : 文藝春秋 2020年12月号