日本を動かすエリートたちの街、東京・霞が関。日々、官公庁を取材する記者たちが官僚の人事情報をどこよりも早くお届けする。
★次官レースに新展開
政府は11月24日の閣議で、外務省の滝崎成樹アジア大洋州局長(昭和60年入省)を林肇官房副長官補(57年、外務省)の後任に起用する人事を決定した。
後任のアジア大洋州局長には船越健裕官房審議官(63年)を充てることとなった。船越氏は在米日本大使館一等書記官、官房総務課首席事務官などを経て、内閣官房の国家安全保障局(NSS)内閣審議官、首相秘書官などを歴任した安全保障のプロフェッショナルだ。
阿川尚之慶応大名誉教授が明かした気骨溢れるエピソードがある。ワシントン勤務時代の02年に大使公邸で開催された天皇誕生日レセプションにラムズフェルド国防長官が現れた。多くの参加者が尻込みする中、プリンストン大学のスクール・タイを締めた船越氏がラムズフェルド氏を囲む人垣をくぐりぬけて話しかけた。すると強面で知られるラムズフェルドが「君もプリンストンかね」と応じ、周囲は驚いたという。
その船越氏が筆頭局長であるアジア大洋州の局長に就任したことで次官レースも新たな展開を迎えた。
秋葉剛男外務事務次官(57年)の次は、森健良外務審議官(政務担当・58年)、山田重夫総合外交政策局長(61年)がかねてから有力視される。その山田氏の後任を、岡野正敬国際法局長(62年)、船越氏、市川恵一北米局長(平成元年)が争う構図だ。さらにその次を平成3年入省の河邉賢裕総合外交政策局参事官と有馬裕北米局参事官が競う。
近頃の外務省では、総政局総務課長と官房総務課長が出世のキーポストであるが、岡野氏は総政局総務課長、市川、河邉両氏は菅義偉官房長官(当時)の秘書官を経て同局総務課長を務めている。
★「脱炭素」にエース投入
新型コロナ対策やデジタル庁新設に注目が集まる菅政権だが、今秋最も進展したのはエネルギー政策だ。菅首相は「2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」と表明。東北電力女川原発も再稼働への地元同意を得ることに成功し、核廃棄物の処分場問題でも候補地が現れた。
「脱炭素」は安藤久佳事務次官(58年、旧通産省)を中心に、経産省が約1年前から水面下で検討していた長期戦略だ。再生可能エネルギーで電力需要をすべて賄うことはできず「温暖化防止のための原子力利用」を国策にする路線が敷かれる。
安藤次官は今年夏の人事で、資源エネルギー庁の人事を一新。省内の要所にエネルギー政策に精通した人材を配置した。前線で指揮するエネ庁長官には保坂伸氏(62年)を起用。自動車課長や産業税制担当の課長を経験し、同期のトップを走る。若手の頃は米国で最も評価が高いロースクールを持つミシガン大学で学んだ。安藤次官もここに留学している。「2人は組織プレーを重視する。布石を打ちながら目標に近づく点も似ている」(有力課長)とされる。
エネ庁の飯田祐二次長(63年)は「政治家の懐に飛び込むタイプ」(閣僚経験者)とされ、軽快に動く。東京電力の柏崎刈羽原発の再稼働を2、3年後に実現することに照準を合わせ、原子力政策を組み立てている。
平成元年入省のエースとされる山下隆一産業技術環境局長は、廃炉技術の開発を担う。CO2を地下に貯留し大気中への排出量を減らす技術も、脱炭素の基幹的な開発案件になる。東電に取締役として出向した経験が生きてくる。
省内は「原子力、温暖化対策とも攻めの姿勢でいく」(官房幹部)と勢いづいている。
★デジタル庁の強力布陣
デジタル庁の人事構想が見えてきた。中核となるのは平成6年入省の総務省三羽ガラスだ。上仮屋尚内閣府参事官(旧自治省)は地方出向を挟みつつ足かけ10年、マイナンバー政策に取り組んできた「番号族」。
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source : 文藝春秋 2021年1月号