今年の米国の大統領選挙は、どちらが勝とうとも米国の今後の長期的趨勢を決する歴史的な選挙となるだろう。
米国は、トランプ政権の下で世界からの撤退を始めた。それを突き動かしたのは米国の社会の分断であり、荒廃である。ここから米国はさらなる衰退へと向かうのか、それとも衰退を食い止め踏ん張るか、あるいは再生に向けての反転のきっかけをつかめるかどうか、の分水嶺となる選挙となるに違いない。
米国の衰退は戦後、何度も取りざたされてきた。いまから振り返れば米国のパワーの絶頂期ともいうべき終戦直後にソ連の核実験成功、朝鮮戦争の膠着、さらには1957年のスプートニク・ショックといった挫折を味わい、早くも衰退がささやかれた。
1960年代のベトナム戦争の泥沼を経て1975年のサイゴン陥落に至って米国内に疲労感と衰退感が広がり、カーター政権が登場した。カーターは1979年の第2次石油危機に際して米国の「自信の危機」を克服することを呼び掛けたが、1980年の大統領選挙でレーガンに敗北した。
レーガン革命で立ち直ったかに見えた米国だが、この間も経済と技術の両面で日本に追い上げられ、追い抜かれ、再び米国衰退論が取りざたされた。1987年に出版されたポール・ケネディの『大国の興亡』は「手を拡げすぎた帝国」の危険に警告を発した。「米国の世界での利害と義務は、それを裏打ちすべきパワーをはるかに超えている」と言うのである。
ところが、レーガン政権からブッシュ政権にかけて天安門事件(1989年6月)、湾岸戦争(1991年1月)、ソ連崩壊(1991年12月)が立て続けに起こった。
だが、米国一極構造の栄華も長くはなかった。米国史上最長の戦争を続けたものの結局撤退に向かったアフガニスタン戦争、占領後、破綻国家を生み出し、イランの勢力伸長の手引きをしただけのイラク戦争、米資本主義の危機と経済倫理の腐敗を露わにしたリーマンショックは、米国の威信とパワーを大きく傷つけた。米国衰退論が再びにぎにぎしく唱えられ始めた。
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source : 文藝春秋 2020年12月号