尹錫悦(ユンソンニョル)大統領は任期5年の3年目になる2024年8月15日、日本支配からの解放を記念する恒例の「光復節記念演説」で日本との過去の歴史には一切触れなかった。その代わり、日本についてはたったひと言「韓国は昨年(2023年)、1人当たりの国民総所得で日本を追い越した」と述べた。これは尹大統領の対日観を象徴的に物語っている。
「韓国は先進国になった、もう昔の韓国ではない、過去のことで日本にぐずぐずいうのはやめよう」ということである。韓国の反日は日本に支配された歴史にこだわって日本を非難し続けることだから、尹政権は日本との関係で「過去離れ」あるいは「被害者意識からの脱皮」を目指す“脱・反日”を進めているのだ。八・一五演説はそれをあらためて印象付けた。
尹政権の日韓関係は、歴史がらみの外交案件だった韓国人戦時労働者(徴用工)補償問題やフクシマ原発処理水問題など、日本の主張に耳を傾けることで劇的に修復された。岸田文雄首相との首脳交流は12回に及び、それは日米韓協力体制の強化につながった。
一方、国民レベルでは“コロナ明け”もあって往来が爆発的に回復し、お互い世論の好感度も広がった。日本はKポップ・ブームで、韓国では旅や食をはじめとする日本ブームが拡大、深化している。
尹大統領の対日関係改善について筆者は「ノーベル平和賞級」と評価したことがある(『文藝春秋』2024年2月号)。その後、知日派で知られるキャンベル米国務副長官も米ハドソン研究所のセミナーで「両首脳は困難な歴史問題や国内での抵抗を乗り越えて強い決意を示している」として「ノーベル平和賞の共同受賞に値する」と語っている(同年4月)。
ノーベル平和賞といえば金大中(キムデジユン)大統領(1998-2003年在任)を思い出す。北朝鮮の金正日(キムジヨンイル)総書記と史上初の南北首脳会談を実現させたことで2000年のノーベル平和賞を受賞したが、授賞理由には日韓関係の改善も含まれていた。1998年10月の「日韓共同宣言」などによる関係改善が評価されたのだ。彼は当時、「これで日本との過去は清算された」と語っている。
ところが金大中時代の日韓関係は、任期末期に歴史教科書問題で大きく悪化した。日本で保守派の新しい中学歴史教科書が検定に合格したことを理由に、韓国で激しい反日運動が起きたからだ。この時、金大中政権は日本の教科書事情を説明して国内世論を説得するのではなく、教科書記述の修正を日本政府に外交要求するという反日策に出ている。対日関係改善から一転して“ちゃぶ台返し”だ。
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