新型コロナウイルスが欧州で再び、拡大している。ドイツではルフトハンザの株価が1日で10%近く暴落するなど経済の先行きが不透明になっている。ロックダウンに後戻りするところも出ている。ただ、欧州全体で見れば、致死率はこの春ほどではない。
このウイルスに対して我々はまだ知らないことがあまりにも多い。確かなことは、それが経済の格差を衝き、それを広げ、政治と社会を分断し、国々の関係を緊張させ、国際システムに亀裂をもたらしていることである。人間社会の弱みをえぐる点において、それはおそろしいほど攻撃的であるが、変異が変異を生みその攻撃は体系的ではない。ウイルスには意思がない。企図もない。多くの国では人々はすでに戦いに疲れ、厭戦気分が蔓延し始めている。インドネシアの若い起業家とZoomで話していたら、インドネシアではもうこれ以上、感染拡大防止策を繰り出すのは難しいと言う。
「ロックダウンができるのは豊かな先進国だけだ。家に居ろと言われて居ることができるのは恵まれた人たちだけ、要するにロックダウンは格差を生む。テレワークも同じことだ。それをやれる企業は大企業だけ。中小企業ではそれはムリ、結局、ここでも格差が生まれる」
「コロナ危機を乗り切るにはデジタル変革をもっと進めなければならない。しかし、デジタル変革を進めれば格差はもっと拡大する。貧困層にとっては、感染を取るか飢えを取るかの二者択一しかない。絶望的選択だ。この社会的反動は必ず来る。反乱がおこるだろう。先が全く読めない、怖いです」
すでに不確実性を深めつつある世界はいまやラディカルな不確実性の時代へと突入しつつあるようにみえる。
9・11テロが起こったとき、ドナルド・ラムズフェルド米国防長官が記者会見で語った有名な言葉がある。この世の中には、known knownsとknown unknownsとunknown unknownsがある。9・11テロはこの最後のunknown unknownsである。「知らないことを知っている」のではない。「知らないことを知らない」そうしたラディカルな不確実性に言及したものだった。
新型コロナウイルスは9・11テロよりもリーマンショックよりもはるかに地球全体への脅威を与えている。米中対立をはじめ世界の地政学的かつ地経学的状況が液状化し、グローバル化と第4次産業革命によってどこも政治と社会が分極化している。内外ともに秩序とルールが脅かされつつある。何事も予測しにくくなる。それが人々の合理的判断を曇らせ、そこから生じる恐怖感が過剰反応を生むことになりかねない。不確実性はラディカルな性格を帯びる。
ではどうすればよいかと言えば、不確実性と共生する以外ない。
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source : 文藝春秋 2020年11月号