イッテQに出始め13年。こんなに日本にいる事は初めてだ。時差もなく長時間の飛行機移動もない。現地で一か八かで虫を食すこともない。もちろん身体的には楽だし時間にも余裕が出来た。けれどそれはそれで不安になったり複雑なのである。一時は「このまま一生海外ロケ出来ないんじゃないか」とか「お仕事がなくなるんじゃないか」と気を揉んだ。けれど、どんだけ考えたところでどうしようもなく、状況に身を委ねるしかない。
この時期、ちょうど結婚したこともあり、今まで1ミリもやってこなかった料理を始めた。これまでは「時間がない」ことを理由に外食三昧に出前三昧。インタビューなどでも「イモトさんって料理されるんですか?」「いやぁ全くしないですね」「そりゃあんだけ海外に行かれてたら家でご飯作る時間ないですよね」「そうなんです、まあアマゾンのピラルクはさばけるんですけどね(笑)」
こんな感じで乗りきってきた。しかし、実は料理する時間は全然あったのだ。単に面倒くさかっただけだ。ただ食べるのはとても好きで、友達に作ってもらったり外食したりで満足していた。
それが今回、莫大にある「お家時間」を持て余し、ようやく家庭料理という未知のジャンルに足を突っ込んだのだ。
まずレシピ本を買い漁り、料理アプリをダウンロードし、料理動画を何度も再生。いざ料理をしてみると「理科の実験」のようで、とても楽しかった。何回かに一度美味いものが出来ると「自分はもしや天才なんじゃないか!」とキッチンで小躍りした。カレーに関してはルーでは飽き足らずスパイスにまで手を出し、ついには御徒町までスパイスを求め、スリランカ人のお店に足を運んだ。お目当てのスパイスを購入し、店を出る時に「ダンニャバード(ありがとう)」と自然に発した自分に驚いた。
日々スーパーに行くのも楽しみになった。始めは「生姜焼き」と決めたら一式を買っていたが、段々と「いま冷蔵庫にあるものプラス」の部分をスーパーで買い足すという高度な技も身につけ始めた。以前、1人分のすき焼きを作ろうとスーパーに行き、レジで「6000円」と言われた時には「二度と自炊はしない」と心に決めたのだが、あの時の自分に言ってやりたい。「お前は数年後、冷蔵庫の残りもので2品作れるようになるのだよ」
自炊を始めて良かったことが2つある。
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source : 文藝春秋 2021年1月号