アルカディ・ワクスベルク著、松宮克昌訳「毒殺 暗殺国家ロシアの真実」

文春BOOK倶楽部

池上 彰 ジャーナリスト
エンタメ 読書

ソ連時代から続くロシアの“見せしめ”

 かつてのソ連には言論の自由がなかったけれど、いまのロシアには「言論の自由」がある。ただし、その後の生命の保障はない。

 こんなブラックジョークがあるのが、プーチン政権下のロシアです。2020年8月、ロシアの野党指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏が旅客機内で体調が急変。いったんはロシア国内の病院に搬送されましたが、「ロシア国内では危険だ」という支援者の判断でドイツに移送されました。その結果、旧ソ連軍が開発した毒薬「ノビチョク」を盛られたことが判明しました。

 ノビチョクによる殺人の試みは、2018年3月にイギリスでも起きています。イギリスの諜報機関MI6に情報を流していた元ロシアのスパイとその娘が、ノビチョクによって重体になったのです。2人は命を取り留めましたが、無関係の女性が死亡しました。

 またか、と思っていたら、この本を書店の店頭で見つけました。著者はロシアのシベリア生まれのユダヤ人ジャーナリストで、初版は2007年にフランス語版として出版されました。ロシア語版は出ていないのです。内容からして、とても出版はできないでしょう。

 著者は、ロシア革命以来のソ連の歴史をたどることで、クレムリンの片隅に、レーニンからプーチンへと引き継がれてきた「毒物研究室」が存在すると暴露します。ソ連は「国家テロ」を始め、その手法は、ソ連が崩壊してロシアになっても続いているというのです。

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source : 文藝春秋 2021年2月号

genre : エンタメ 読書